男がタイヤモンドを回っている。その目は非常に喜びに満ちていてどこと無く楽しそうでもあった。
『猪狩守サヨナラホームラン!自らの手で勝利を掴みました!』
そんな放送も聞こえてくる。
「うわあ・・・すごいや。」
観客席で10歳にも満たない僕がそう言った事をはっきりと覚えている。
そしてその瞬間自分が野球のピッチャーに憧れた事も覚えている。
10年後の春・・・僕は恋恋高校に進学した。
第一話『驚愕?共学!?』
「ところで・・・丸岩・・・少し話があるんだが・・・」
僕は隣で平然と立っている幼馴染の丸岩の肩を叩いた・・・恐らく僕の笑みは引きつってるだろう。
「僕は・・・野球部の強い所はどこかと聞いたよね・・・」
「聞いたな、心配するな恋恋高校は過去二回甲子園に出場し一回は優勝している古豪だぜ。」
いつもは心が和むはずの丸岩の笑みが今日は見てるだけでむかむかして来る。
「そうか・・・それじゃあそれには目をつぶろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で?この男女比はなんだい?」
僕は持っていたクラス表を丸岩の顔に突きつける。
「122人中男子6人、内4人は夜間通学。つまり部活が出来る男は僕らしかいないんだよね・・・これはどういうことかな丸岩君?」
どうだ!もう逃げられないぞ丸岩ぁぁぁ!!!
とっと白状しちまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
今僕はそんなオーラを体中から発していると思う。
「落ち着け早乙女!分かった言うよ!言えばいいんだろ!」
「そう!言えばいいんだ!」
思いっきり丸岩を睨みつける。
「もてると思ったんだよぉ!116対2の確率だったらほぼ確実にもてると思ったんだよぉ!もてる街道に乗ってるお前には分からないかも知れないけど俺達男はみんなもてたいんだよぉ!」
こんな馬鹿な思想のためにわざわざつき合わされた僕って一体・・・ていうか僕は生まれて一度ももてる街道に乗った覚えはない。
つうかそれよりもっと重大な問題がある。
「ていうか野球部は!こんなほぼ女子高状態の学校に野球部なんてあるの!はっきりって僕達は野球意外では輝けないんだよ!」
そうだ!今重大な問題は野球部の有無についてだはっきり言って今ここで丸岩が無いなんて言ったら即八つ裂きにする!
「そ・・・それは・・・」
丸岩が重く口を開いた。
「野球部はあるよ、一応甲子園優勝高だからな。」
丸岩が引きつった顔で言う。ちょっとホッとした。
「それなら今から入部するよ。野球部があると言うことは部員だってしっかり居るんだろ?」
そうだよね…部があると言うことは部員だってしっかりしてる筈だ。
「いや…それが…」
丸岩が言葉を濁す…まさか…
「居ないの…部員?」
「すまない!早乙女!俺がもてたいと言ったばっかりに…」
…どうやら丸岩は僕に殺されたいらしい。
いや待てよ…ただでさえ男が少ないのだから丸岩は殺さないほうがいいな。
それよりもやるべきことをやろう。
「とりあえず部員を集めよう。女子だけでも実力があればいいからね。」
我ながら名案!
「ええ!俺は今からもてに行きたい。」
丸岩があまりにもふぬけなことを言うので一睨みして
「誰のせいでこうなったのかな〜?もし手伝わないのなら君の恥ずかしいことに尾ひれと足をつけて陸上行動を可能にしてターボエンジンを装着させて大気圏を突破させた噂を流して二度と学園生活をエンジョイできないようにするよ。」
と言ってやった。
「はい…すいません手伝います。」
こうして僕のてんやわんやの高校球児生活がスタートした。