第28話『第一ラウンド開始。最初の山』

































運命のプレイボールがかかった。




誰もいない、休日の校舎に響き渡るサイレン。

先攻は野球部、両チーム主将、門倉と鞘元がくじを引いて決定した。

音が鳴り止むと、野球部の一番打者が左打席に入る。









『一番、センター、永園君』









古橋「一番永園か・・・、昨年外れて泣いてやがったお前がレギュラーやなんてな・・・」

永園「ほざけ、長い間カスみたいな連中と戯れていたお前なんか、敵じゃない!」

古橋「ほー、随分偉くなったもんやな・・・・」









主審の手が上がり、プレイがかかった初球。



















ズバッ

















主審「ストライーック、ワンッ!」






乾いた音をたて、ミットに収まったボールの速度に。打者の永園は驚きの表情を隠せなかった。







永園「・・・・・な・・・なんだと・・・・」






古橋「どや、これが俺の・・・・1年間の成果や・・・」






その後古橋の思った以上の球速の飛躍に驚いたには1番永園は緩急を付けあっさりセンターフライ。

2番打者の桜場も、投手転向の古橋の成長振りに驚きを隠せぬままショートゴロ。



あっさり二死。



上々な立ち上がりに、ボール回しをする内野陣の動きも良い。

このまま、初回を切り抜けて、波に乗りたいところ。。





しかし・・・そう簡単にはいかない・・・・。





コールと共に、あの男が打席に立った。。













『3番、ピッチャー、鳥羽崎君』













古橋「きやがったか・・・・・」



薄い青髪、華奢な体つきに、金色のピアス。

冷酷な瞳に、秘められた無類の闘争心。

因縁の対決の第一ラウンドは、初回二死ランナー無しと言う静かな場面が用意された。





吉見「審判のおっさん、タイムな」

主審「お・・・おっさん!?」



捕手の吉見が、タイムを取って、マウンドに歩み寄る。

マウンドの傾斜で、丁度顔一つ分小さな吉見が背伸びをして目線を合わせる。



吉見「鳥羽崎だよ、MGとか、フォークとか使う?」

古橋「いや、こいつには打たれても二塁打までや・・・じっくり他の球で責めこうや。このあと、もっと恐ろしい怪物が控えとるんやしな」

吉見「このあと?」

古橋「時期にわかる・・・とにかくコイツには、最初の二人と同じ組み立てで責める・・・」

吉見「・・・・だったら、失投はダメですよ・・・確実に低めにね・・・・」



一通りの確認が終わり、吉見がホームベースへ戻っていく。

一度、鳥羽崎と目が合うが、吉見はあくまで強気に鳥羽崎を睨みむ。


吉見「ごぶさた・・・、元気だった?」


皮肉たっぷりの吉見の言葉に、鳥羽崎は顔色一つ変えずに言い放った。


鳥羽崎「気安く話し掛けるな・・・」


その言葉を聞き、吉見は表情を曇らせながら、地面に唾を吐き捨てる。

今すぐに、この場で殴ってやりたいほど憎らしい相手を前に、冷静さを保つことで精一杯なのだ



初球、吉見は自分を落ち着かせる意味を込め、外角一杯にスローカーブを要求。

二球目は、インコースにスライダーを投じ、痛烈な一塁線へのファール。

三球目は再びスローカーブだが、ワンバウンド。

四球目は一転したストレートだったが、際どいコース見送られてボール3。



ここで先にバッテリーに焦りが生じた。


1―3から、カウントを取りに行く為に甘いストレートを安易に投じたその刹那・・・・。








カーン








打球は痛烈にセカンドの頭上を襲う・・・

打球はそのまま右中間をまっぷたつに裂く勢いで直進している。













バチッ













鳥羽崎「何だと!」

古橋「こ・・・小宮山っ!」

小宮山「っしゃぁ!」




確実にセカンドの頭上を越え、長打コースを襲うはずだった。

しかし、何とセカンド小宮山が、信じられない程の垂直飛びを見せ、打球を叩き落す。

そのまま送球すれば、俊足の鳥羽崎といえど、完全にアウトだろう。










だが、コイツは一筋縄では終わらない。。










シュ





西郷「おいっ!!」



送球は、長身の西郷の遥か頭上を越えていく。

小宮山は、なんと二塁から一塁と言う、野球と言うスポーツで最も短い距離での暴投。

自らのスーパープレーを台無しにしてしまった。。



小宮山「ゴメン。俺、送球苦手なんだわ・・・」

古橋「・・・・・なんでやねん・・・・・」

嘉勢「もういい、古橋。二塁打が一塁で止まったと思え・・・・」



長打から一転、ファインプレー、しかしそこからなんと暴投。

脅威の守備力と不安定さを、セカンドの小宮山が露呈した。

このプレイには、思わず野球部のベンチから笑いが漏れた。。








二死、一塁・・・・。








何はともあれ、ここで一番怖い打者と対峙しなければならない事実は覆らない・・・。
















『4番、サード、堂上君』






















堂上「古橋・・・、二度お前には負けん、負けを覚悟してかかってきやがれ!」

古橋「へっ・・・お前如きが偉そうに言うてくれるやないか、今一度おもいしらせたるわ・・・」











何か、鳥羽崎とは別に。因縁関係を持っている様子のこの二人・・・。




一体何が、そして、第二野球部はこの最初の山場を乗り越えることが出来るのか・・・









続く