第27話『運命(さだめ)の時・・・・・』
ここは、河川敷のいつもの練習場である・・・。
皆、今日に限り、集合時間前に集まって、各自身体を温めたりして、準備を整える。
古橋が、門倉が、嘉勢が・・・そして、小宮山も吉見も。それぞれ一言も話さず神経を集中させる
負けたら全てが終わるのだ・・・
後世代の、城彩入学者で、野球部入部試験不合格者全ての野球人生の芽を潰すことになる。 そして、何より。自分達の今までやってきた活動の場が奪われる・・・・。
そして・・・・何より純粋に。悔しいだろう・・・・・。 そんな思いと勝ちへの執念が重なり合い、緊張という別の感情が芽生えだす。。
集合時間10分前、グラウンドに武藤と中浜が到着する。 これで、選手は全員。古橋の呼びかけで、選手は一度集合・・・・。
皆、それぞれ自分自身の決意と、第二野球部の運命を背負い、校舎の方へ出発する。。
古橋「遂に・・・この日がきた・・・。俺は再び、このグラウンドで暴れたるで・・・」 吉見「古橋さん。全て清算してやりましょう・・・、何より俺達の野球を見せ付けてやりましょう」 古橋「あぁ・・・頼むで壮真。お前以下1年坊共に、かかっとるんやで・・・・」
城彩の校舎に到着すると、既に野球部は練習を始めていた・・・。 それをみた門倉が、皆にアップするように指示。
すると門倉は一人で、野球部側のベンチで偉そうに座り込む理事の元へ歩み寄った。。
一応、相手の監督への試合前の挨拶は忘れてはならない・・・・。 相手がどんな人間であろうと、それが野球界の常識なのだ。。
門倉「理事長・・・」
門倉が、声をかけると、眠ったように俯いていた理事が、顔を上げる。。
理事「おやおや、第二野球部の子か。今日はお手柔らかにね・・・こっちも最後の大会を控えているんだ、怪我なんかさせられちゃったらたまったもんじゃないからね・・・」 門倉「招致しております・・・。我々如きの為に、こんな試合まで用意して頂いて・・・」 理事「なぁに構わんさ。それより今日は最後なんだから、精一杯楽しみなさい・・・」
そんな、悪意がたっぷり篭った理事の皮肉にも。 門倉は顔色一つ変えずに対応する。。
門倉「胸を借りるつもりで・・・、挑ませて頂きます・・・・」
度重なる、理事の言動に、門倉は何度も怒りを覚えた・・・。 だが、ここは冷静に怒りを押し殺し、練習に合流する・・・・。
門倉「誰が今日で終わるか・・・・終わるのは・・・・・・・・・・貴様等だ・・・」
一方、学校の門の外、一台の車が、停車した・・・・。
そこから出てくるのは見覚えのある・・・・。 胸には‘KASAI‘との文字の入ったユニフォームと、背中の背番号1番・・・・。 彼は前日に、彼等の荒療治に付き合わされた、社会人快速右腕。吉見創だった。
真上「あわわわわ・・・・」
そこに、コロコロ一球のボールが転がってきた・・・。 すると時間差で、小さな少年があたふたしながら、ボールを追いかけに来る。。 ボールは創の足にポンッと当たって、足元で静止する。 創はボールを拾うと、拾いに来た真上を呼んで、ボールを投げる。
吉見(創)「おい、第二野球部。」 真上「あ・・・あなたは・・・」
パシッ
道路に、捕球時の乾いた音が、ポンッと響き渡る。 軽く投げたつもりでも、音をだす球威くらいはあるのだろう・・・。
真上「あ・・ありがとうございます」
真上は軽く頭を下げると、駆け足で校内に入っていく・・・。
吉見(創)「おい、君。ちょっと待って・・・」 真上「はい?」 吉見(創)「これ・・・壮真に頼まれてたやつなんだけど・・・・」 真上「なんですか、それ?」
創は、デパートの買い物袋を取り出すと、それを真上に渡した。 真上は中身を確認すると、驚いた表情で創を見る。
吉見(創)「葛西のユニフォームを、ちょっといじっただけなんだが、一応お前等の試合用のユニフォームを用意した。良ければそれをきて試合に臨んでくれ・・・・じゃあな」 真上「あ・・・、ど、どうも・・・ありがとう・・ございます!」
真上がそう言うと、創は軽く手を上げて、合図をして、その場を去っていった。
真上「(ぼ・・僕たちだけじゃない・・僕たちを応援してくれてる人の為にも・・今日は勝つんだ・・)」
30分後、両軍は審判の呼びかけに応じて、ベンチに待機していた・・・。 野球部の1年生が、グラウンドを整備し、外野にネットを張る。 着々と試合の準備は出来ているようだ・・・。
野上「真上先輩?その紙袋はいったいなんですか?」
真上が持っている異常に目立つ紙袋の存在に速攻で気付いた野上が問う。 すると真上は満面の笑みで、説明する・・・
真上「へへへ、これはねー、壮真のお兄ちゃんが来て・・・・」
と、真上が持ち前のマイペースで物事を説明する。 結局、時間の割には簡潔な説明を受けた第二野球部の選手たちだったが・・・ その中身をみて、各自感激する・・・。
古橋「ええやないか、これ!」 吉見「ったく・・・余計なことしやがって・・・」 真上「えー、壮真が頼んだんじゃないの〜」 吉見「・・・・・ばれてたか」
笑いが溢れる、三塁側のベンチの対角にある、一塁側ブルペン。。
野球部エース鳥羽崎と、捕手の鞘元が投球練習を行っていた。。 召集がかかった後でも、ブルペンは自軍側のベンチに各自設置されているために、使用可能だ。
鳥羽崎「ラストだ・・・」 鞘元「・・・・・」
鳥羽崎の投球は一流だ。それは古橋とは比較にならないほどのものであろう・・・。 主体となるのは、スタンダードに120km/h台を計測するストレート。。 それに加え、大きく曲がるカーブ、鋭く滑るスライダーに、タイミングを外すチェンジアップ。
そして更に今回はもう一つ、真横に折れるシュートもみられる・・・。
一般的にシュートは、諸刃の剣。使いつづけると、肘の致命傷にも繋がる危険な球。 それに、短時間で習得できるような、簡単な変化球ではない。。 それを・・・3年になって1年かけて‘折れる‘程のキレを出す練習を重ね物にしてきた。。
鳥羽崎自身も、この球の危険性は十分理解している・・・・。
鞘元「鳥羽崎・・無理はするな・・・あとは試合で使うだけだ・・・」 鳥羽崎「あぁ・・・わかってる。今日は‘あの‘シュート無しで勝ってみせるさ・・・」
三塁側、一塁側共に、シートノックを終える。 再びグラウンド整備が行われ、終了と共に両軍のベンチから選手が出てきて、並ぶ。 お互い、相手を睨み、威嚇して、闘志を剥き出しにする。
刹那
主審「集合!!」
大きな声を上げて、中央に両軍選手が集合した・・・・。
存続をかけた、運命の試合が・・・今、幕を開けた。。
続く |