第41話『そして謎は漆黒の闇に・・・・』































試合終了から、約3時間が経過した。

日も刻々と西に傾きはじめて、肌を刺すような北風が吹き始める

そんな中、小宮山は教師、熊田に呼び止められて学校に残った

そして試合を終えた他の野球部の1年生、野上、吉見、西郷は帰路についていた




野上「熊田先生、なんかいつもと雰囲気違ったね・・・・」

吉見「あぁ、あの理事長と言い、熊田といい。変な奴ばっかだな、ここの先公はよ・・・」

西郷「に、しても鳥羽崎さんの話ってなんなんだ?」

吉見「どうもひっかかるよな、古橋さんだって、アイツの事あんましらないみたいだし・・・・」

野上「今回・・・・どうも、嫌な予感がする・・・・」






そして、僅かな静寂が流れて、間を置いた後に一同が顔を見合わせて言う





「「「見に行くか」」」





こうして彼等は、一度歩いてきた帰路を再び戻りだした。。
























一方、小宮山は熊田から驚愕の事実を聞かされていた





鳥羽崎は中学三年生にして宛先不明の仕送りを頼りに一人暮らしをしていること

彼を訪ねて、何度か暴力団が学校に押し寄せてきたこと

彼の生い立ちが全く不明であり、肉親が誰一人いないと言う事



小宮山「で、どれと俺と何の関係があるんだよ・・・・」

熊田「もの凄く関係してると思うぜ・・・・」

小宮山「・・・・・・・何で」



しばし、ためらいの沈黙が流れた・・・・

風が吹いた、



熊田「丁度一週間前、アイツが進路面談で俺のとこきたんだ、俺の親族が見つかったってな・・」

小宮山「し・・・親族?」

熊田「簡単に言えば、血の繋がった人間・・・・ってことだ」

小宮山「それが見つかった・・・ってことだろ?」

熊田「あぁ・・・落ち着いて聞け。あいつの家族は8年程前に、火事で焼死しているらしい」

小宮山「火事!!」



一瞬、自分の記憶を疑った。

いや、記憶と呼べるものなのだろうか、自分の脳裏にはっきりと焼きついているあの忌々しい炎

8年程前の火事。とても他人事とは思えないが記憶が無い。



自分には、全くといって良いほど過去の記憶が無い。

小学校に入学した時、それが彼の中にある一番古い記憶。



人の脳は、都合の悪いこと、辛いこと、苦しいことは忘れよう、忘れようと働きかけると言う。




もし、頻繁に脳裏に過ぎるあの忌々しい光景が、事実だとしたら

幼かった自分は、あまりに衝撃が大きかったのだろう・・・・

だが、いま自分には父親がいる、一家全焼?そんな訳あるはずない。

確かに、自分の体には原因不明の火傷の痕がくっきり残っているが、親族はちゃんといる。

自分は無関係だ。小宮山はそう思った・・・(と言うより自分に言い聞かせたような感じだったが)
















しかし、幼き日々のなくした記憶と、今の自分を纏めて貫くような無情な言葉が心を射抜く






















熊田「小宮山・・・鳥羽崎の奴は、こう言ってた『俺の弟にあたる人物が生きているとするならば、あの日の恐らく記憶を失っているはずだ・・・・』とな・・・・・」

小宮山「っーーー!!」





一瞬、漠然と自分の中で築き上げてきたものが崩れ落ちていくような気がした。

俺は鳥羽崎の親族、兄弟。でも俺は小宮山太一。親だって、ちゃんと小宮山って姓だ。

姓の違う鳥羽崎と、兄弟。寝ぼけるのもいい加減にしろ・・・そう怒鳴ってやりたい。

しかし、初めに出会った時の、あの妙な懐かしさ、不思議な何かは今でも体が覚えている。

同じ血液が流れているもの同士しか感じることの出来ない、何か・・・・。

否定は出来ない。でも、肯定も出来ない。自分はどうすればいいのか・・・・







しばらく、答えを出すことは出来なかった・・・・














だが、その答えを出すのは、まだまだ先のことになる

















パリーン



















刹那、目の前のガラスが急に飛び散った。

あまりに突然の出来事に、二人は言葉を奪われた・・・


















そして、そこには幾人かの黒いスーツを羽織った不気味な男たちが降り立っていた。

胸元には、不気味に光る、紫色の花のような紋章。みな同じ服装で同じ帽子。

違うのは顔だけ、漆黒の闇に身を包んだ男たちは、それぞれ表情一つ変えずに歩み寄る





熊田「て・・・てめぇら、いつかの・・・・」





熊田は声を震わせながら、必死に黒服の男たちを睨みつける。

いつかの・・・と言う事は、以前にも対峙したことがあるのだろうか・・・





黒服「おや、久しぶり。いつかの先生でしたか、これはこれは。」





黒服の男は、不気味なほど丁寧に帽子をとって頭を下げた。

帽子の下は、綺麗なスキンヘッド。口調とは裏腹に、かなりいきり立っている。




黒服「あんたが、鳥羽崎零から話を聞いたとの情報は入っている。そして、血迷ったか、そこにいる子供にそのことを話そうとしていたこともね・・・・」

熊田「なっ・・・・!!」




何故、そんな内部の情報まで、奴等にばれているのか・・・

鳥羽崎は、そこまで完全に包囲されていたのか・・・・

だが、幸いにも。傍らの小宮山が鳥羽崎の親族だと言う事には、まだ気付いていないらしい。




熊田「くそっ(最悪、コイツだけは何とか逃がさなければ・・・・・)」




しばらく対峙した後、先頭にいる黒服の男は、後ろにいる部下のように見える男たちに指示を出し、熊田を包囲し、捕らえていく。

熊田は暴れたが、人数があまりに多すぎる、助けを呼ぶ口もふさがれている。




黒服「念のために、そのガキも連れて行け!」

小宮山「−−−−−−っ!!」




黒服の男たちが、小宮山に迫る。

小宮山はじりじりと追い詰められて、反対側の窓際の追い込まれる。

捕まりたくない、殺される・・・・

嫌な妄想が、頭の中を過ぎる、人生初めて心底恐怖した。




黒服の男が、自分の周りを包囲する。




男はじりじりと、間合いを詰めてくる、どうすればいい、逃げ場は無い・・・・。

既に熊田は、窓に突っ込んだ超小型飛行機に連行されている。

今日は休日故に、助けは来ない。このまま自分も捕まってしまうのか・・・・











その時・・・・



















吉見「おっかしいな、さっきこの辺からもの凄ぇ音が聞こえてきたと思ったんだけどな・・・」

西郷「気のせいじゃないか?音は確かに聞こえたが、外部のものかもしれない・・・」
















聞いたことのある、野太い声と、僅かに高い掠れた声

視線を窓に向けると、確かにそこには、吉見と西郷。そして親友野上の姿が

















飛ぶしかない・・・・・

















黒服は小宮山の射程距離に近づき、一歩踏み出せばすぐに捕まえることができる距離まで迫ってきた。

相手の息遣いも荒い、恐らく失敗すれば後ろで傍観している別の黒服になんらかの処罰を受けるのであろう。



















そして、遂に一瞬のスキをついて窓を開ける。




















黒服「あ・・・・・・」




小宮山「へへっ、じゃね」


















凍り付いていた小宮山の表情が、一気に溶け安堵の表情に変わる。

そして、小宮山は美しく宙に舞った。

蝶のように、見事なまでに華麗に、そして重力に身を任せて落下する









黒服「お・・・追え!逃がすな」









黒服の一人が指示を出し、一斉に出口に向かう。

死に物狂いで、荒い息遣い、何かの動物の群れのようにただひたすらと・・・・・












しかし、そこには別の怪しい陰が立っていた・・・


























「放っておけ・・・・」






























黒服「な・・・・はっ!!」





















黒服たちは一斉に立ち止まり、敬礼した。

その陰の正体は、紛れもなく城彩中学の理事長であり、聖玉学園のスパイである榊原だった。。
















理事「探していた人材は鳥羽崎ではない、奴・・・小宮山太一だ。だが、今は放っておけ」

黒服「で・・・ですが、奴を捕らえなければ、教皇が・・・・」

理事「最終的に我々の邪魔にならなければいい、それより今はBB-13より優れた薬の製作と有望なアンドロイドの捕獲を優先しろ」

黒服「わかりました・・・・撤退!」






















一方、その頃落下した小宮山を見事受け止めた吉見がその衝撃で転倒

落下した巨大な物質に潰され、7イニング使いつづけた体が悲鳴をあげる。

小宮山が落下した際に吉見の右足が潰れた。

痺れて、起き上がることすら出来ない。

全く、第二野球部が再発進すると言うのに、こんな形で足をやっちまうなんて・・・・

吉見は呆れ、驚き半分で心底後悔した・・・・








小宮山「おわっ、壮真か・・・サンキュ」






そんな吉見の激痛に気づきもせずに、あっさりと言い放った小宮山




吉見「お前、ホント容赦ないブレスだな・・・・2回から落下って・・・」

西郷「どうしたんだ?一体・・・・」

小宮山「話は後だ・・・とにかくここから出よう!」

野上「え!?」

小宮山「いいからっ!!」





























一同は、城彩の校舎を後にして、小宮山から信じられないような事実を知らされた

鳥羽崎のこと、突如現れた黒服たちのこと、拉致された教師、熊田のこと 













その日の夜、城彩・・・いや、全国民がブラウン管を通じて、その奇妙な事件を知ることになった

しかし・・・結局。謎の黒服達の消息の手がかりは見つからない・・・・。












それは、彼等が・・・歴史的勝利を手にした、僅か数時間後に起きた悲劇・・・・
































そして、翌日。

城彩地区の一角にある、とあるアパートが全焼したと言うニュースが流れた
























死傷者 鳥羽崎零・・・・・























続く