第40話『大団円と結末...』
































また、ここだ・・・・

















たまに・・・・、自分でこれは夢だってわかることがある・・・・

夢の中の自分が、自分の存在を夢の中のものだと自覚している・・・・

だけど、もう二度とこの場所には来たくなかった・・・・

何故だか解らないが、胸が痛い・・・・

炎に身を焼かれるよりも、煙を吸い込み酸欠になるよりも、ずっと胸が痛む。

大好きだったひと、愛するひとが熱く燃え上がり、やがて冷たくなっていく・・・・

自分の両手をがっしりと握り締める、少年と少女も気付けば、その場からいなくなっている

冷たくなったはずの手が、僅かに動き出し、自分に何かを与えてくれて、機能が永久停止する。



















僕はひとりだ・・・・



























「おいっ!おいっ、大丈夫か!!」















ふと、目の前の光景が一瞬にして消え去り、胸の痛みも消えた。



起きた瞬間、記憶が薄れた



何があったのか、はっきりと思い出せない。

その目の前の光景だけがくっきりと脳裏に焼き付いている・・・・



目の前にいるのは‘自分が愛していた誰か‘ではなく。

‘苦楽を共にした仲間‘だった。

彼は目を擦り、顔を左右に振るわせると、眼をパッチリ見開いてそいつの顔を見つめる。





小宮山「賢時か・・・・」

野上「た・・・太一っ!」





野上が掠れた声を絞り出すと、付き添いのでっかいのが駆け寄ってくる。

そして、それに続き、涼しい顔でゆっくりとちっこい方が歩み寄ってくる・・・・



ここは、どうやら学校の保健室のようだ。。




「目が覚めたようだな・・・」



最初に視界に入った4人の後ろから、さらに大きく、いかつい顔をした武将髭を生やした男が低く漏らす。



「全く、野球の試合でホームランを打って気絶するたぁ、前代未聞だな」



男は、一人で喋った挙句、一人でゲタゲタ笑っている。

正直言って気持ち悪い、野上達はお互いに顔を見合わせて苦笑した。




小宮山「おい、熊田のおっさん。あんた、随分寂しい男だなぁ」




熊田と呼ばれた男は、あまりに無礼な小宮山の対応に、表情を一変させて、小宮山に顔を近づけて何やら怒鳴りだす。

彼こそが以前、1度だけ登場した城彩1の名物教師の熊田。担当教科は社会。

言動が非常に生意気で憎たらしい小宮山は、教師達の中の評判は最悪だが、彼だけは違う。

と、言うよりいつも挑発にのって、本気になって口喧嘩。

似た者同士、喧嘩するほど仲が良い。

熊田も影でコソコソ‘キモイ‘などの近代的日本語で罵られるよりも、面と向かって言われる方がかえって気持ちがいいらしく小宮山に好感を抱いている

小宮山も、何を言っても軽く流され、自分を見下して評価してくる教師よりも、挑発にのって、本気になってくれる先生の方がよっぽど良いと、熊田に対して悪い印象は持っていない。




そして、今宵も口喧嘩は現在も進行形だ。

野上「あー、まーた始まった・・・・」

吉見「おいおい、大丈夫か」

野上「いいの、これはこれでお互い楽しんでるから・・・・・」




野上が事体を冷静に把握して、慌てる吉見と西郷の視線を逸らさせる。

窓を覗くと、先ほどまで自分達が試合を行った決闘場がさばさばと風に吹かれている。

彼らにとって、そこは運命の決戦場であり、終点であり、スタートラインでもあった。。

伝説の剣豪武蔵、佐々木小次郎を破った、巌流島。

薩摩藩と長州藩が団結して、幕府軍を破った函館五稜郭。

いつの時代も、時代の終わりは、新たな伝説の始まりとなった・・・・

そしてそれは様々な人の様々な記憶の中の劇場(ドラマ)であり・・・

その場所は、甲子園であり、国立競技場であり、地元の運動場でもある・・・・。










悲しみも、劣等感も、絶望も全て、初めてここで力にすることができる・・・・











野上「俺たち・・・・勝ったんだよな・・・・」

吉見「ああ・・・・・」















一方、一時の戦いは儚く短い。



口喧嘩は止み、お互いに冗談を言い合い笑いあう、小宮山と教師の熊田。

野上がもう安心と察して、小宮山に‘帰ろう‘と誘いかけて保健室を去ろうとする・・・

小宮山も‘待て‘と言った後に、自分の2倍ほどの大きさをもつ巨漢の大人に合図して去ろうとする。

すると、熊田の大きな手が小宮山の小さな肩に手をかけた。

小宮山はそこから動けなくなり、足踏み状態。

我に返った小宮山は、ふと後ろを振り向く熊田が先ほどまでとは打って変わった表情でじっと小宮山を見ていた。

そして、低くドスの利いた声で静かに囁いた。






熊田「おい、小宮山・・・鳥羽崎は、あんまりからかわんでやってくれ・・・・」

小宮山「え?鳥羽崎!?なんで?」




小宮山は驚いた、彼の中で正反対な存在と映っている人物が、どこかで繋がっている。

不思議であって、不思議ではない・・・・、頭の中の糸が絡み合って解けなくなる・・・




小宮山「おい、鳥羽崎って野球部の3年の、キザな奴っしょ?・・・・なんで知ってるの?」

熊田「知ってるも何も、俺は奴の担任だ!」

小宮山「お、マジで!」




驚いているのか、流しているのかわからないような、いい加減な反応を示した小宮山

だが、相手の表情を見て、真剣なことに気付いてとっさに向き直る



小宮山「でも、どうしてだ?なんかあるのか?」

熊田「アイツは、肉親が誰一人いないらしい・・・・」

小宮山「え?」

熊田「お前はバカでどうしようもない奴だが、事情を知れば、わかってくれる奴だと思ってる」

小宮山「・・・・・え?」








熊田はそう言うと、野上達を帰して小宮山に言う








熊田「ついて来い・・・・・」





小宮山「・・・・・・」









小宮山は口を開かず黙々と熊田の後について歩いた・・・・

途中、敗色の色を隠せずに項垂れる野球部員とも擦れ違ったが、小宮山は目を合わせなかった



そして、進路指導室と書かれたドアを熊田がゆっくり開ける。

今は無縁なのか、それとも一生無縁なのか、もう二度と来ることも無いかもしれないし、数年後幾度となく顔を見せるかもしれない部屋が、なんとも質素で儚く見えた。




机を中心として、向かい合った位置に設置された椅子に熊田が座る、小宮山も後について座る



そして熊田は、いかつい顔をさらに顰めさせて、小宮山に語りかける。





























熊田「遅かれ早かれ、お前には話しておかなければならないことだ・・・よく聞け」

小宮山「・・・・・・・」


























一体、鳥羽崎の事情とは何なのだろうか・・・・



別に、小宮山は聞きたくも無いし、興味もないはずだった。。



しかし、コイツは俺に話さなければならないと言ったし、聞かなければならない気もした・・・・























そして、最終打席で、鳥羽崎の呟いた意味深な言葉の真相は・・・・・




















続く