第1話『天才少年と努力家』






































県立城彩中学・・・・・。

進学校でもなく、女子校でもない、何処にでもあるごく普通の学校。



強いていえば野球部が有名である。

昨年は県大会のベスト4まで勝ち進んだ

だが、今日。そんな学校の歴史が大きく変わる出来事が動こうとしていた。

新学期、そして新入生にとっては新たな生活が始まろうと言うところ。





























それが全ての始まりなど、この時点では誰も想像していなかっただろう・・・・。


































1年B組。

ここに配属されたのは、天才スポーツ少年小宮山太一だ。

周りの生徒が担任の挨拶、学校の説明などを真剣に聞いている中。

彼は一人、ブレザーを脱ぎ、ズボンを膝下までまくって、椅子に寄りかかって寝てしまった。

学校の歴史だの、生活の仕方だの、野球が強いだの・・・彼にとってはどうでもいいようなことだったのである。

それに彼にとって、大きなモチベーションダウンの要素となったのは、担任教師が中年の女。世間的にいえば‘おばさん‘だったことである。





「太一、初日から寝てるけど・・・・」

「ほっときなよ。初日から目を付けられると大変よ」





そんな小宮山を気にしていたのが、幼馴染の野上賢時と古畑茜。

現時点でクラスで唯一、小宮山の気心知れた友達なのである。

進学すると、生徒や場所も変わるから。再び新たな生活が始まると表現してもおかしくないだろう。












キーンコーンカーンコーン












遂に鐘が鳴る。学校用語ではチャイムと言う奴なのだろうか。

本日1時間目が終わった。しかし時計の針は11を指している。

今日はこれで下校らしいが、入学式の長さと自分の睡眠時間を改めて実感した。



小宮山「あー、一日退屈だった・・・。」



立ち上がり、腕の関節を伸ばして、体の重さを取る。

すると、幼馴染二人が、彼によってくる。

野上「太一〜、初日から大丈夫か?」

古畑「さすがの太一でも、初日から爆睡だとはおもわなかったよ」

幼馴染の二人も驚く暴動。初日睡眠はさすがに最近の中学でも珍しい。





小宮山「あー、寝てばっかで体が鈍っちゃうよ。ちょっと軽い運動してくるよ」





小宮山のその言葉に、二人が凍りついた。





顔を見合わせて、同時に‘やめてくれ‘と制されるが、軽い身のこなしで難なくかわす。

小宮山「大丈夫。俺が一回でも捕まった事あっか?」

古畑「ない・・・って。アンタの心配してんじゃないんだよ!!」

と、古畑が言うが。小宮山は愛敬たっぷりの笑顔を残して走り去った。


古畑「あぁ・・・小悪魔め・・・」

野上「重症だな・・・・」





















しばらくすると、遥か遠くから女子生徒の断末魔の叫びが聞こえてきた。








その直後、猛スピードで逃げる小宮山と、それを必死で追いかける女子生徒の姿があった。




野上「やっぱりやっちまったか・・・」

古畑「アイツの日課だもんな・・・。」









































しかし、慣れない校舎の為か、運悪く行き止まりへ追い込まれてしまう。

窓はあるが、ここは3階。そこから落下して死ぬか。このまま殺されるか・・・。



女子生徒「いきなり女の子の胸を揉んで逃走とは。いい度胸じゃない。でもこれで終わりよ」

小宮山は困った顔を浮かべて、自分の運の悪さを悔やんだ。

まず一つは、被害者がメチャクチャ気が強い子だったこと。

もう一つは行き止まりに逃げてしまったこと。

小宮山「ゴ、ゴメン。も、もうしないから許してよ。ね。ね。」

小宮山は一転、無邪気な顔で必死に命乞いを始める。

しかし、効果はまったくなさそうだ。



女子生徒「いい加減観念しなさい!!」



































その瞬間だった。

































後ろの窓に、後ろ向きで飛び移り。そのまま窓の外へと小宮山は落下していった。






































女子生徒「え・・・嘘!!」


何度もいうがここは三階。おちたら最低でも骨折はくだらない。
















しかし、小宮山は落下はしなかった。

二階に出てる水道管に掴まり、そのまま二階の窓にひょいと飛び移る。

なんて運動神経だ・・・・・。

女子生徒は二階に降りて、小宮山を追うことも忘れてその場にペタと座り込む。







女子生徒「な・・・なんて奴なの・・・」


































一方小宮山は、見事な逃走劇の余韻に浸っていた。


小宮山「うん、我ながら見事だ。まずは中学1勝!」


彼のこの行為は小学生時代からのものである。

だが、捕まったことは一度も無い。

この俊足と運動神経、反射神経を持ってすれば、絶対に逃走可能なのである。


小宮山「とは、いっても・・・。この先なんにもやることないな〜」


逃走の余韻は一瞬で冷め、複雑な気持ちに狩られていた。


小宮山「部活・・・っても。面白くないし。俺はここで、何を目的に生活すればいいんだか・・・」

































天才だけに、何をやっても人よりできる。



だけど、何をやってもすぐに飽きてしまう・・・・。



それが、彼の唯一の悩み事でもあった。







































一方、教室では・・・。


古畑「へぇ、じゃあ賢時は野球部に入るんだ」

野上「うん、できれば太一も一緒に誘ってやりたいけどね」

古畑「ムリだよ。アイツ野球なんて3日で飽きると思うし。それに、堅持と違って。殆どやったことがないんだよ。いくらアイツの運動神経でもここは強豪だよ」


確かに、彼の性格が球拾いや雑用に向いているとは思えない。

と、いうより本当に3日も続きそうに無い。



野上「そうだね。」

古畑「うちらもそろそろ、自分の道を見つけなきゃならないの。可哀相だけど、太一にばっかりかまってられないよ・・・」

野上「うん、確かに・・・・・」










自分の歩むべき道もわからず、フラフラしている天才少年と。

ひたすら自分の道を見つけて、少しずつでも前進しようとしている努力家

変わろうとしてきている彼らに。

小宮山は置いていかれる、そんな気がしてならなかったのだ・・・・。