第3話「小さな巨砲」






























雲に隠れていた太陽が、再びグラウンドを照らす。

河川敷で練習しているのは、城彩中学の第二野球部と呼ばれる同好会である。

特別部活動として承認されているわけではないが、それでも部員は9人居る



「おい、それよりお前、野球暦はどんくらいだ?」



少年が、小宮山に尋ねる。



小宮山「ねぇよ。ゼロだ、たまに遊びでやったくらいだな」

「あ、そう。まぁな。中学から始める奴だって居るもんな」

小宮山「おい、それよりお前さっきから一緒に居るけど誰だよ?」

「あ、お前はまだだったな。俺は吉見壮真、この地区のホームラン王だった」


少し自慢気に吉見が語り、野上が驚く。

しかし、ここで拍子抜けのひところが小宮山から飛び出した





小宮山「ホームラン王って凄いのか?」







ズコッ。拍子抜けだ。

小宮山は類い稀なる運動神経の持ち主でありながら、ノミのような脳みその持ち主でもある。

彼が野球をやらなかった理由は単純に‘ルールが難しいから‘

彼がスポーツで頭を使ったことなど、サッカーのヘディング位しかない。


野上「ホームラン王ってのは、地区で一番沢山ホームランを打っている選手のことだよ!」


野上が数秒遅れで解説を入れる。

さすがにこの解説の予定は親友の野上も無かったらしい。


小宮山「思い出した、あの中日の山崎武司が獲ったやつだろ」


何故山崎?

吉見、野上が顔を見合わせたが、発言の相手が小宮山なので突っ込むのも止めた。

こいつに突っ込みを入れ続けてたらカンニ○グの中島みたいになる・・・。


野上「吉見君、ホームランバッターだったの?あんまりそういう風に見えないけど・・」


野上が本来一番気にするべき所にようやく突っ込みを入れた。

普通はそこに着目するだろう所に・・・。

なんせ、小宮山が158cm、野上が157cm。これが中学1年の平均と考えて比べると

目の前に居る自称ホームラン王は彼らより更に5cm程小さいのだ。


野上「ほら、言いにくいけど。ホームラン王っていったらでっかくて、体格の良い人が獲ってると思うけど・・・」

小宮山「そうそう、こんな感じの」

野上「太一っ!!」


野上の問いの途中で、通りすがりの太ったおっさんを平然と指を指してばかにする小宮山。

これには吉見も質問そっちのけで笑う、そして野上は焦る。


吉見「太一ってのか。面白いな。うん、確かにホームラン王はでかくてごっついのが多いな、松井秀喜とか、中村紀洋とかな」

小宮山「松井?中村?誰??」

野上「・・・・・・・@@@」


説明の吉見、真面目に聞かない小宮山、そして呆れ返る野上。

なかなか釣り合いがとれてて面白いトリオかもしれない。


吉見「でもな・・・・、いたっ!」


吉見が話している途中に、後ろから何者かが吉見の頭を掴んだ。

そして、そのままもう片方の手で、吉見の体を宙に浮かせる。

でかい、先ほどまで話していたホームランバッターに見事当てはまる体格

だけど、一体こいつは誰なんだ?


「壮真。お前こんなとこであそんでたのか?」


推定身長175cmの巨漢の男は、吉見に問い掛けた。





吉見「相変わらずのバカ力だな、西郷」





野上「!!?」


知り合いか・・・!!?

それにしても、彼らの間に流れる空気は清々しい。


吉見「お前も第二野球部に流れ込んだのか?」

西郷「あぁ、あそこは俺の性には合わん」

吉見「あぁ、おんなじだ・・・・・」

小宮山「おいおい、チビ・・確か・・。壮真だったか。それとそこの大仏。主人公の俺を差し置いてイチャついてんじゃねぇよ!」

野上「(に・・・日本語の使い方を間違ってる・・。大仏って・・・・)」


だが、何気少し似ていることに気付き、野上は心の中で爆笑する。


吉見「あ、悪ぃな、コイツ昔のライバルだったんだ。」

西郷「まぁそういう事。ヨロシクな」

小宮山「あ・・うん・・・」

野上「な・・なんて心が広いんだ・・・・」


よく、大仏なんて言われて平然とヨロシクと・・・・。

いかつい顔立ちからは想像できないほど、爽やかで心が広いのかも・・・。












4人は、河川敷を降りて、第二野球部の練習所に移動。

ブルペンっぽい所で投げている中背で渋い顔立ちをした少年と、ちょっとふっくらとした相手が吉見の元にやってくる。


「ん?誰やお前ら」


渋めの先輩が、吉見の元へ現れる。


吉見「野球部漏れで〜す、メンバーに入れてください」


すると、ちょっと小太りのほうが歩み寄ってくる。


「で、どうする?入れんの?」


しばらくボソボソ話しこんだ後、野手の皆も集まってきた。

吉見より更に小さな少年、茶髪気味の人相の悪い奴、色白で無表情そうな人...etc



「俺はいいよ、だけど俺ら試合なんておっさん達と練習試合する事位しかできないぜ」

「多ければ多い程いいって言うしな」

「上手すぎると困るけどよ」



挙がって来る声は歓迎の声ばかり。

吉見が最後の一押しで、あっさり入部することが出来たのである。

そして、簡単な自己紹介などを済ませて、加籍することになった。


「じゃ、そっちの子が野球経験が無いだけで、あとはみんなあるんだ」


と、無表情な人が事を纏め上げる。


吉見「ま、実力の方は見た方がはやいっしょ」

「そやな、俺が投げたる。嘉勢受けてくれ」


と、無表情の人を指名して、メイングラウンドのマウンドに上がる。


嘉勢「おい、古橋。マジか?」


古橋と呼ばれたのが、渋い顔立ちの投手だ。


古橋「そこのチビとでっかいのには覚えがあんねん。立てや」

吉見「おっけーッスよ。見事返り討ちにしてやりますよ!」

野上「だ・・・大丈夫かな、壮真君。態度でかいぞ」

西郷「心配するな、奴にはそれに伴う実力がある」


初球、古橋から繰り出された球は直球。



ズバーン!



小宮山「おい、見えたか?」

野上「プロじゃないんだから・・・・」

小宮山「ふ〜ん、俺だけが見えたんじゃないんだ・・・・」

野上「・・・・・・・・@@@@@@」



古橋の球は、110km/h台の速球。

中学生軟式の平均球速である。



吉見「そこそこの速度があるみたいだね、だけど・・・そんな直球じゃ通用しないね」



これだけの速球を放れて、通用しないとはどういうことだ。

小宮山はしらんが、野上は自分の実力と比べて、壮真の器の大きさを感じ取っていた。

それは、古橋も一緒だった。



古橋「(わかっとるわ、俺の‘速球‘じゃそれなりの打者には通用せん言うことはな・・・)」



その後は、カーブ、スライダーと次々に変化球を容赦なく投げてくる。

しかし、吉見はストレートに的を絞って釣り球を振っては来ない。



吉見「(間違いない、この人は投手ではない・・・。投手をやっている、野手だ・・・)」

嘉勢「(こいつ、気付いてるぜ、多分・・・使うか。イチかバチか・・・)」

古橋「(直球や、ハズレよったら元も子もないわ!)」



古橋は、振りかぶって再び、速球を投じる。



西郷「壮真は・・・直球だったら絶対打つぜ・・・」

小宮山「なんで?」



吉見「甘いぜ、センパイ!」



吉見が、足を高々と上げて、古橋に背を向ける。

そして、そこから一気に発射。







カキーーーーーンッ!!!!







古橋「!!」


打球はセンターを遥か越えて、質素に作られた区切りの柵を超えていく。


西郷「なんせアイツは、俺からホームラン王を奪い取ったんだからな・・・」


そして、吉見は言った。


吉見「センパイ、いくつ隠し事をすれば気が済むんですか・・・」

古橋「あ?」








吉見「あんなの打っても嬉しくないです、決め球投げてくださいよ・・・・・」








古橋「なっ!!」



その言葉に、彼らも、第二野球部の選手も皆、凍りついた。



古橋(コイツ、タダもんやないで・・・・)」


野上「凄い・・・・一打席で見抜くなんて・・・」



だが、そんな中、打席の吉見を軽々と片手でどかし、左打席に西郷が入る。



西郷「壮真、お前の打席は終わりだ。俺がそいつを投げさせてやる・・・・」

吉見「は??」

古橋「調子に乗りすぎや、クソガキ・・・・」



日が雲に隠れる、北風が吹き付けるグラウンド・・・。


いま、第二野球部の歴史を変える一打が、ここから生まれた。


しかし・・・、こんなものは彼らの実力の、まだ片辺でしかなかった・・・・。


野上「凄い・・・凄すぎる・・・」










小宮山「あー、今回俺、あんまし目立ってねぇ・・・・」






続く