第4話『秘密兵器MG』



























吉見「さて、西郷。見せて貰うよ」

西郷「あぁ、見せてやるよ」




二人の間で軽く火花が散る、なんせ吉見はこの第二野球部のエース古橋からセンターへ特大のホームランを打ってしまったのである。

中学軟式の球場は両翼は70m、センターは90m。

90mとは、分かりやすく言えば神宮球場の左右スタンドギリギリのところだ。

ギリギリとは言え、神宮のスタンドに飛ばすほどの選手が、この第二野球部にいる。

それだけでも野球部のメンバーはゾッとしていた。




そして・・。



カキーーン。




打球はレフトへの大飛球、僅かに切れたが今度の打球は川の方まで言ってしまった。



嘉勢「真上〜とってこいよ〜」

真上「ちぇ、は〜い・・・」



真上と呼ばれた小さな少年は、川の方へを向かう。



小宮山「おいおい、何でアイツそんな面倒なことあっさりひきうけてんだ?」

野上「多分あの人が2年生で、キャッチャーの嘉勢って人が3年なんだと思う」

小宮山「ふ〜ん、部活って上下関係辛いな。」



話が逸れたが本題に戻そう。

古橋の初球のストレートを西郷はいとも簡単に川まで飛ばしてしまった。

推定飛距離は90m以上だろう・・・・。



西郷「(あの人のストレートはイマイチ重量感に欠ける、そしてなにより投手としての回転がかかっていない。手元でノビてこない、逆に沈む。球威があってもこいつは打ち頃だ)」

古橋「(ノビへん直球やったら打てる・・・とでも思っとるんやろ・・・)」

嘉勢「(もう逃げられねぇよ、アレしかない・・・)」



カウント1ストライク、1ボール。投球二球目。

古橋が振りかぶって、投げた。



西郷「!!」



投球は完全に西郷のタイミングを外した、速度が遅い、20km/hの球速差はあるだろう。

だが、西郷はそんな緩急だけで抑えられる打者ではない。

体勢を立て直して、ボールを体に呼び込む。

そして、ミートポイントをあわせて、球道を予想。振る・・・・。












ストーンッ










西郷(なっ……!!)













ブンッ









西郷のバットは、空を切った。

その瞬間、西郷だけでなく吉見、野上も固まった



古橋「どや、魔球やで、そのへんのピーは絶対投げられへんわ。」



回転が無く、重力に任せてボールが落下する。

これぞ、まさしく現代の魔球と言われたフォークボールである。



吉見「ちゅ・・・中学生でフォーク投げる奴なんているのかよ・・・」

西郷「(計算外だ、あんなの投げられたら、もうこの打席は打てない・・・・)」



だが、驚きムードの一年の中で、一人状況判断が出来ていない奴がいた。



小宮山「なんだよ〜、あんなおせ〜球かっとばしちまえよ〜」

野上「無理だよ、フォークボールだもん」

小宮山「あのおせー球が何だって言うんだよ!」

野上「簡単に言うと、フォークってのはボールに回転を加えないことによって、重力の影響を大きく受けて、打者の手元でストーンと落ちる球なんだ」

小宮山「ふ〜ん、勿体無いな〜」

野上「何が?」

小宮山「勿体無い・・・」

野上「・・・・・・・???????」



勿体無いと謎の呟きを残す小宮山の正面。

西郷と古橋の勝負が大詰めを迎える。

古橋は遅いカーブ、スライダーを駆使して打ち取ろうとするが、西郷は際どいところを見送ってきたり、粘ったりと巧打も駆使してくる。



吉見「(さすが、HR二位だけでなく、打率も地区TOP10に入った実力者だな・・・)」



古橋も、そんな西郷の打撃を見て、少し焦りを感じていた。



古橋「(どないすんねん、コイツ。中々粘りよるで。それに万に一つフォークが抜けたらフルカウントや)」

嘉勢「(万に一つじゃなくて、3球に1球だろ、変化球は粘られる、速球はアウト、フォークは抜けたらダメ。と、いったらアレしかないだろ・・・・)」

古橋「(アレか、こんな勝負に二つも使ーなんて思わへんかったわ)」




古橋の投球5球目、古橋は今までと明らかに違うフォームで投じてきた。

思いっきり捻りを加え、全身のバネを軸を中心に捻っている。

大リーグの野茂投手・・程ではないが、阪神の久保田投手のような。









トルネード投法!!


































ズバーン!!


















球は真ん中高め、コースは西郷の一番好きなところだ。

だが、古橋のストレートは今までと打って変わってノビがあった。

全身のバネで、球にノビを伝えたのであった。



西郷「っーーーーー」



三振を喫した西郷は、潔く吉見の元へ帰ってくる。



古橋「(正直驚いたで、ここまでやるとは思わへんかったわ)」



最後の球は、命名マグナムショット。

通称はMGと呼ばれる、第二野球部エース古橋の秘密兵器でもあった。

ただ、1球で疲労が蓄積する、制球が定まらないなど様々なデメリットを抱えている

その為、試合でも決め球でしか使われないのである。



真上「ふ・・古橋さんが、MGまで投げるなんて・・・」



吉見「西郷、どんまいだ。俺だってあんなの投げられたら打てねぇ・・・」

西郷「いや、力不足だ・・・」

野上「そんなことないさ、俺。初球のファールビックリしたぜ!!」



だが、そんな1年の輪の中に、小宮山の姿が無かった。

野上が気付き、辺りを見渡してみると、なんと小宮山は打席に立っていた。



野上「・・・−−−−っ!!おいおい、太一!」



小宮山「先輩〜、今度は俺が相手しま〜す。絶対打つんでヨロシクーー!!」

古橋「な、なんやねん・・・・」

野上「お・・おい、太一っ!!」

吉見「好きにさせてやろうぜ、案外打ったりしてよw」



古橋「しゃーない、なげたるわ。」



地区を代表する強打者、西郷すら三振に討ち取った3年エース古橋。

そんな古橋を、生まれて初めて打席に入る少年が迎える。



小宮山「あの‘勿体無い‘落ちる球なげてこないかな〜」



古橋「なんやこいつ・・・」





続く