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古橋「か・・関西弁兄貴・・・・」
実績のある二人と対峙し、ある程度実力を確かめた古橋。 ここまでの対戦で自分の実力は残りの二人にも見せつけたハズ。 特に野球は、軟球とはいえ死球への恐怖心が芽生えれば、初心者が容易く打席に立ちたいとは思わないはずだ。
古橋「ほな、教えなアカンな。野球の怖さを・・・」
初球、古橋の投じた球は小宮山の顔面に向かって飛んでくる。 しかし、小宮山は一向に避ける素振りを見せない。
古橋「おい、よけな・・・」
フッ・・・
小宮山の顔が、僅かに動く。 すると球は、小宮山の顔のほんの数ミリ横を通過していく・・・。
小宮山「今のはボールだよね」 嘉勢「あ・・あぁ・・・・」
数ミリ・・・。 それは、小宮山が僅かに顔をズラした分の距離だった。
普通の人間は、初めて打席に立つ時は体に近い球を少し大げさに避ける傾向がある。 それは‘身を守る‘と言う人間の本能がそうされるのである。 だが、彼の場合は違った、ほんの僅かズレただけで、無駄な動きはほとんどない。 すなわち死球への恐怖心が殆ど無い、と言うわけである。 それに、最小の動きで避けきったと言うことは、球筋が見えているということ。
吉見「どういうことだ？アイツ、ホントに野球経験無いのかよ・・・」 西郷「今の球は完全に危険球だ、良くあれで避けたものだよ・・」
驚きを隠せないのは彼らだけではない。 第二野球部の面々も、半ば驚きの表情を浮かべた。
古橋「（何やて、信じられへんわ・・。普通ビビって避けるであのコース）」 嘉勢「（脅しは通用しないって事だ、大丈夫。恐れるに足らず。真ん中三つで三振だ・・）」
見事な反射神経で辺りを驚かせた小宮山だったが、その後はさっぱり。 真ん中の球には、二球とも全くタイミングが合わなかった。
ツーストライク
やはり、野球初心者には110ｋｍ/ｈを超える速球は辛かっただろうか・・・。 正面から走ってくる車がだんだん大きくなる原理と同じように、近づくにつれて加速していくように見える現象が発生するのだ。 これは、やはり何度も打席に入って経験するもの。 どんな運動神経があろうと、あの速く小さな球を細いバットに当てるのは不可能だ。
だが、小宮山は全く諦めていない。 どちらかと言うと、追い込まれているのに、その眼差しの輝きはみるみる増して行く。
そして、ついに究極の爆弾発言が飛び出した・・・・。
小宮山「あの、遅くて落ちる、勿体無い球を投げてくださいよ。俺、アレなら100％打てますよ」
古橋「は！！！？？」 嘉勢「な・・・なんでまた・・・・」
１年メンバー、第二野球部メンバーが共に吉本新喜劇風にずっこけた。
ただ、先ほどまでの彼のスイング、構えを見ている限りでは、素人のレベルは遥かに超えている。 それに、初球の反射神経を見る限り、初心者のたわごとだとは思えないようだ。
嘉勢「（どうする、抜けて真ん中に入ったら打たれるぞ・・・）」 古橋「（かまへん、思いっきり低めに投げたるわ。せやさかい、しっかり止めてーな）」 真上「（古橋さん、マジだ・・・・）」
古橋が、投球の構えに入る ワインドアップモーション 投球第4球目を・・・・。
投げた・・・・・。
吉見「ところで、古橋君のフォークって、どんな感じ？」 西郷「本当に落ちるんだ・・・、チェンジアップの類いじゃない、俺が手も足も出なかったのに、素人の小宮山が打てることはまず・・・」
ガキッ
鈍い音が響き渡る。 完全に打ち取られた打球だ・・・・。
ん？まてよ・・・打ち取られる・・・・？？
古橋「！！」 小宮山「ヤベ、完全に詰まった！！」 西郷「いや、そういう問題じゃなくて・・・」
当てた・・・・・
彼は、遅い球だと知って、右足を思いっきり引いた。 だが、足は上げなかった。 足を上げると無駄な力が入るから 軽く膝を曲げて、一気に腰を捻り、振る・・・・・。
そう、千葉ロッテの福浦のようなアッパースイング。
縦に落ちる球は、縦に捉えれば良い・・・・と・・・。
古橋「浅間、一塁だ！」 浅間「うっせぇ、わあってら！」
三塁線に力なく転がっていくが、正面。 茶髪の先輩、浅間がゆっくり捕って一塁へ送球。 動きは何処と無くぎこちないが、送球は力がある。これはアウトだと思った瞬間。
バフッ
パシッ
畑中「お・・・おい・・・・」
一塁手の先輩、畑中のミットにボールが収まるが。 なんとその一瞬前に、小宮山の足が一塁ベースを踏みつけた。 その証拠に、捕球音より一球先にベースを踏みつける音が響き渡る。
畑中「せ・・・セーフだ・・・は・・はえぇ・・・・」 小宮山「ははっ！最悪じゃん！！」 嘉勢「（素人の癖にフォークを当てやがった・・・それに、あの足の速さ・・・・半端じゃない・・）」
小宮山は振り返って、地面の砂を蹴り上げる。
小宮山「あー、壮真みたいにスカッとかっ飛ばすつもりだったのにな〜、うぜー」 畑中「おい、小宮山・・だっけ。お前俺なんてあの球当たりもしないんだぞ、素人が当てただけでも喜ぶべきだろ！」 小宮山「先輩の基準が低いんですよ」
小宮山は吐き捨てるように言い、つまらなそうに再び砂を蹴り上げる。 畑中はムッとして何かを言おうとするが、マウンドから降りてきた古橋の制される
古橋「おい、ガキ。よくも当てやがったな、ホンマ初心者かい？」 小宮山「見ての通りっス、俺。野球だけはセンス無いみたいっスね・・・」
そう言って去ろうとする小宮山・・・。 だけど、傍から見たら、初見でフォークを当てるなど、考えられない。 センスが無い訳ないのだ・・・。
古橋「（アカンな、勘違いしてはる・・・）」
古橋だけでなく、誰もがそう思った。 しかし、そんな彼に一渇入れたのは・・・・・
西郷「おい、まさかお前。壮真が野球始めた時から打てると思ってる訳じゃないだろうな・・」 小宮山「だってそうだろ？」 西郷「そんな訳ないだろ！お前が今までどんなスポーツをやってきたか知らないが・・・。野球は他のスポーツとは違う、運動神経や反射神経より感覚や練習量が重視される。お前は今打席に初めて入ったんだろ？」 小宮山「あぁ、そうだ。だからなんだよ・・・」 西郷「まず考えろ、お前は考えることから始めた方が良さそうだ。大丈夫、ある程度練習すればお前ならすぐに打てるようになる、絶対だ・・・」
練習しろ・・・。
スポーツにおいて、俺が生まれて初めて聞く言葉かもしれない・・・。
何をやっても人より出来た、だから練習などしなくてもはじめから上手かった。
しかし、この‘野球‘と言うスポーツは違った・・・・。
彼の最大の弱点である、思考力と経験が必要とされるのであった。
一つのフィールドを駆け回るサッカーやバスケットボール。 相手との１対１の勝負であるテニス。 そして、狭いコートで相手と対峙するバレーボール。
これらは全て経験したが、ある程度動きやカンで動くことができれば、できるスポーツ。 いや、そんなことは無いが、能力の高い彼は個人プレーを要求されるポジションに付いていた為に気がつかなかったのだろ・・・。
だが、野球は全てのポジションで思考力や判断力も問われるのである。 要は彼の持ち前のセンスをプラスとすると、経験の浅さ、思考力の悪さがマイナスとなってしまうのである。
小宮山「野球ね・・・。悔しい思いしたのも久々だしな。」 野上「そうだよ、いきなり太一が打っちゃったら俺、どうしようかと思ったし・・・」 小宮山「今はヘタだけど、あと１週間もすれば賢時なんて相手にもならなくなるぜ、壮真もな！」 野上「抜かれないよ！」 吉見「んにゃろー、調子に乗りやがって！！」
この時、小宮山は今までに無い、感覚を覚えた。
今まで出切る事が楽しく、出来ないことはつまらかった。
だから彼は‘考える‘ことが苦手なのである。
だけど今回は‘出来なかった事‘に‘楽しさ‘の感情を覚えてしまった。
こんなことは、初めての事だ・・・・。
嘉勢「要注意だな・・・」 真上「小宮山・・・ですか！？」 古橋「アイツ、前の二人以上におっかないかもしれへんで・・・ってか」 浅間「あぁ？足がはえぇだけのクソガキだろ？」 畑中「にしても態度がでかいガキ共だよな〜」
嘉勢「（アイツ・・・絶対化ける・・・絶対・・・・）」
続く
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