第9話『そして僕らに出来るコト』

 















 

 

 

浅間「おらー、こいや!」

真上「ライトー」

西郷「小宮山。そっちは任せた!」

小宮山「おっけー。バッチOK」

 

吉見「(この人にMGは勿体無いよ。普通の直球で十分だ)」

古橋「(了解)」

 

ボコッ

 

三番打者「あっ。あたったぞい!!」

 

打球はレフトとサードの間にふらふらと上がる。

 

吉見「(浅はかった!落ちたら兄貴だ。どうしよ^)」

野上「ダメだ、届かない!」

中浜「お・・・おい。俺。足遅いんだよ・・・追いつかないよ・・・」

浅間「諦めんじゃねー!!」

 

ズザザーーッ

 

パシッ

 

アウト!!

 

古橋「お。浅間。ナイプレー!」

野上「あ・・・ありがとうございます^」

浅間「賢時。堅ぇよ。はっちゃけろ。」

野上「は・・はい。ホントスミマセン」

 

4回裏。二死からショートに回った浅間のファインプレー。

経験が浅いため、守備に難がある彼だが思い切りの良さは超一流だ。

 

吉見「(読みが浅かった。もっと慎重に配球するべきだ・・・)」

 

しかし。自分のせいで、一瞬とは言えヒヤリとさせてしまった吉見は後味悪そうに立ち尽くす。

意外とこう言うミスは後々尾を引くものだ。

 

バンッ

 

吉見「痛っ!」

 

肩を軽く叩かれて、ふっと振り向こうとする吉見。

だがそんな間もなく頭を軽く抱え込まれ動けなくなる。

 

古橋「ったくー。危ない橋を渡る奴や」

吉見「ちょ・・・離して下さいよ!」

古橋「まぁええわ。可愛い後輩のミスは俺が消したるで」

吉見「アンタはなんもやってないでしょ^」

 

4回裏。一時はランナーを出して吉見兄に回してしまう危機に陥ったが。

結局乗り切って、流れを一気に引き寄せることが出来た。

 

古橋「流れはこっちやで。門倉。いっぱつかましてきたれや!」

門倉「言われなくてもわかってるぜ」

 

この回。先頭打者は門倉。

前の打席では低めの速球に全くタイミングが合わずに三球三振。

門倉に限らずココまで全ての打者から安打が生まれていない今。

誰かが突破口を開かなければ始まらない。

 

そして。そんな想いを胸に門倉が右打席に入る。

 

初球。やはり外角低めの絶妙にコントロールされた速球にタイミングが合わずに空振り。

ボールとバットがかなり遠いが、スイングだけはなかなかの物だ。

 

吉見兄「(あれだけの速球を投げているのにドンドン振ってきやがる。万が一抜けたりしたら持っていかれかねない。。いっちょ脅かしてやるか。。)」

 

二球目、一転して速球。

インハイ、いや。これは明らかなボール。威嚇球と言うやつだろう。

 

吉見兄「(大丈夫。スレスレに投げてやったから当たることはない・・・ハズ)」

 

この球の意図は恐らく門倉の積極性を奪うことであろう。

速い球で威嚇されれば、誰もが打席の中で死球を想像する。

すると、本能的に手数が少なくなる。そう言う意図だろう。

 

吉見「あー。大人げねぇ。」

古橋「甘い」

吉見「え!!?」

 

カキーン

 

吉見兄「う・・・嘘だろ・・・」

 

門倉は、その‘威嚇球‘を打った。

完全にボール。普通の打者なら間違いなく避けるほどの顔面付近の球を。。

 

古橋「アイツは独自のストライクゾーンを持っとるんや」

野上「そ・・そうか。初球のアウトローは門倉先輩にとっては」

古橋「そう。最悪の球や。アイツは目線に近ければ近いほど安打率が上がる」

小宮山「どうでもいいケド。主人公の俺を差し置いて関西弁喋りすぎ^」

古橋「か・・・関西弁・・・やと・・・」

 

だが、130km/hの速球は、連打できるほど難易度は低くない。

5番西郷、6番浅間は連続三振で2死をとられてしまう。

だが、せっかくの無死のランナーを無駄にするわけには行かない。

 

浅間「おい、古橋。ここは武藤しかねぇだろ!!」

中浜「あぁ。恥ずかしい話だが。おれじゃあとても打てそうに無い。」

古橋「中浜・・・・ええんか?」

中浜「あぁ・・・」

 

中浜に代えて、代打武藤が送られる。

 

武藤「小宮山。見ておけ。これが控えの役割だ・・・」

小宮山「・・・・・・」

 

試合前。控えである自分や仲間の役割を中傷する発言を発してしまった小宮山。

だが、武藤はそんな小宮山を一喝した。

しかし、そんな武藤は小宮山は嘲笑う。

だが、武藤は今。控えの役割を自身のバットで証明する。

 

吉見兄「代打ね。でも俺は手加減はしないよ」

武藤「・・・・全力で来い・・・」

 

打席の武藤は、バットを軽く寝かし。手首でゆらゆらとベース上で動かす。

全盛期のオリックス水口を思わせるような豪快な打撃フォーム。

 

小宮山「あんなんで打てんのかよ・・・」

 

小宮山が、小声で呟く。

しかし古橋はそいつを聞き逃さなかった。

 

古橋「小宮山。アイツは・・武藤はな。ホントは俺なんかよりえらいええ選手やったんやで」

小宮山「え?」

古橋「アイツは、右肩が使えんのや」

小宮山「・・・・・・・」

 

武藤は、昔。強豪リトルリーグで4番を打っていた実力者だった。

しかし、ある日。強豪であるチームの半端ない練習量のしっぺ返しが彼を襲った。

右肘の人体損傷。全治不明。いつになるかわからない程。彼の肘は痛んでいた。

 

結局、チームを退団後。家から一番近い城彩中学に通うことになったが。

野球部に入ることも無かった。。

 

それから数日後。最後の大会で自分のそのリトルは優勝した

代わりに4番に座ったのは、ずっと自分の控えだった選手。

そして、その選手は全国大会の首位打者賞を受賞したのだ。

 

武藤が1年夏。野球を離れて半年。

その選手から連絡があった。

その時の言葉は武藤の口から語られることは無かったが。

それがきっかけとなり。再び野球を始めた。。

 

古橋「せやさかい。130km/hなんて奴にかかれば一撃やで」

野上「リトルリーグの球の体感速度は、限りなくプロに近い・・・・ですよね」

古橋「そういうこっちゃ」

小宮山「・・・・・」

 

カキーン

 

吉見兄「おわっ!」

 

武藤「これにて迷いを断て!」

 

打球は左中間を抜けて長打コース。

武藤は二塁へ、一塁ランナー門倉は一気にホームへ滑り込んで1点追加。

 

浅間「ひゅー!やってくれるねぇ!」

真上「武藤せんぱーい!カッコイイよ!!」

西郷「うむ。なんとも味のある見事な打撃だ」

小宮山「す・・・凄い!凄いよ武藤さん!」

 

小宮山は二塁の武藤と目が合った。

一瞬ハッとしたが、武藤が頷いた為。笑顔で返した。

 

これで4点差。尚も二死二塁で打者は途中から8番に入ってる野上。

 

吉見「賢時、翔君だってファインプレー出来たんだ。何があるかわからないよ!」

浅間「おい、壮真てめぇ!どういう意味だ!」

古橋「野上。正直期待はもてへんが、思いっきりやってこいや」

 

誰もがこの場面、これ以上の追加点は望めないと思っていた。

今年の1年の中でも、そんなに目立つ点が無い野上。

だが、野上の目は死んではなかった。。

 

野上「いや。可能性はあります。」

古橋「ん?なんや、言うてみい」

野上「古橋さん。−−−−−−」

古橋「ホンマか!まぁダメ元や。意外とおもろいかもしれへん」

 

野上が打ち合わせを終えて、打席に入る。

バットをじっと見つめ、高く構える。

セントラルリーグ、打点王。今岡誠の如く。。。

 

古橋「(頼むで。これ決めてくれおったら大分助かる・・・)」

武藤「(・・・正気か古橋・・・・・)」

野上「(いいんです、これで。僕に出来るコトはコレしかないんです・・・・)」

 

初球、投球と同時に二塁ランナー武藤がスタート

 

畑中「初球から三盗だぁ!?」

小宮山「おい、関西弁先輩。どういうコトっスかこれ!」

吉見「ダメだ。兄貴のクイックじゃどんな(下手な)捕手でも刺されちまう・・・・」

吉見兄「どういうことだっ!」

 

コツッ

 

野上はバットを寝かせ、ボールに確実に当てる。

いわゆる犠打と言う奴だ。

だが、犠打は主に進塁の為に使われるもの。

この場面、二死二塁で考えられるのはセーフティバントのみだが。

 

彼のバントはその意思がみられない。

ただただ確実に当てただけ。当ててすぐ走り出すこともしなかった。

 

吉見兄「おいおい、カウントミスか?」

 

吉見の兄が小フライとなった打球を捕球しに走る。

 

吉見兄「(少し届かないか。ならワンバウンドで捕って。一塁で殺す)」

 

二塁ランナー武藤は三塁を回る、しかしそんなことは関係ない。

一塁で殺せば、無得点に終わるのだから。。

 

だが、そのワンバウンドが。命取りとなったのだ。

 

ザザッ

 

吉見兄「!!」

 

打球はワンバウンドと同時に、吉見兄から逃げるように軌道を変える。

ホームベースの方向に逃げる打球を、今度は捕手が掴み、一塁に投げる。

しかし。本塁には武藤が突入してくる。

 

捕手「(こしゃくな!殺してやる!)」

 

捕手が武藤にタッチに行く、武藤はホームに滑り込む。

 

吉見兄「おい、一塁でいいんだよ!一塁で殺せば、無得点だ!!」

捕手「おい、それをさきに・・・」

武藤「残念。遅いですよ。。」

吉見兄「あ・・・・」

 

バントした打球がイレギュラーして、そしてエンドランの武藤が本塁突入。

そして捕手の判断ミスで1点追加。記録上はフィルダースチョイス。

 

中浜「やるな。野上の奴。バントした打球にドライブをかけやがった」

小宮山「ドライブ?」

中浜「あぁ。向かってくるボールと全く逆の回転をかけてイレギュラーを狙いやがった」

西郷「そういや。城彩地区にそんな技を使う奴がいたな。」

吉見「ドライブショットだろ。。多分、そいつがあいつ。野上だ。」

 

これで9−4。

二点を追加した城彩第二野球部は、9番真上が気力で喰らいつき相手の失策を誘う。

 

そして尚も二死一、二塁。

打者は1番に帰って、吉見壮真。。

 

吉見「トドメをささせてもらうぜ。兄貴。」

吉見兄「そうはいかないんだなぁ」

 

 












続く