第10話『託された未来』

 















 

 

陽光が雲に隠れ、彼らの視界を遮る物がなくなった。

グラウンドが数え切れないほどの数存在している河川敷。

その中の一つで、彼らは社会人チーム相手に今季初試合に臨んでいた。。

 

そんな試合も、初回あっさり7点を先制。勝利の二文字をグッと近づけた。

しかし相手の社会人チーム、葛西セメントはエース吉見を投入。

その後は第二野球部打線も得点を挙げることが出来なかった。

 

一方第二野球部もエース古橋が4点を失うも、守備にも助けられ、要所を閉めリードを守る

 

そして5回表、城彩第二野球部の打線が再び火を噴いた。

武藤のタイムリーやエラーも絡んで2点を挙げて、ここにきて5点差と引き離す。

 

嘉勢の負傷退場で、急遽吉見壮真がマスクを被ることになったりもしたが

試合は第二野球部のペースで進んでいる。

 

そして尚もノーアウト一、二塁

打者は1年ながら、第二野球部1の打撃力を誇る1番吉見壮真。

 

相手投手は気心知れた自分の実の兄

 

絶対に打ちたい場面だ。

 

 

 

 

 

 

しかし・・・・・

 

 

 

 

 

 

バシッ

 

 

 

 

 

 

ストライーク、バッターアウト!!

 

 

 

 

 

 

ここに来て、見たことの無い球種の連射。

鋭利に曲がるスライダー。縦に滑り落ちるカーブ。そして僅かに変化する直球。

 

やられっぱなしの兄貴の意地を見せた。

 

 

 

 

吉見兄「悪いな。こっちにもプライドってもんがあるんだ」

吉見「ほ・・・本気になるか普通・・・。。」

 

 

 

 

しかし5点差で最終回。マウンドに1年の西郷が上がり。

ピンチを招くも何とか締めてゲームセット。

結局最後はあっけなく終わり。城彩第二野球部が今季初勝利を収めた。

 

 

 

小宮山「は〜緊張した。」

野上「へー、太一でも緊張することあるんだ」

小宮山「うん。俺も今始めて感じた感情だった」

 

 

いつもただただ笑っているだけの小宮山の幼い顔立ちに、安堵の表情が加わった。

こんなに生きた表情の小宮山を見るのは、幼馴染の野上でも初めてであろう。

 

古橋「なんや、たった1試合で変わりおったな」

武藤「俺も思い出すぜ。あの頃を・・・」

 

初めての経験に、小宮山、野上の二人からは達成感と脱力感が漏れていた。

やはり、同じ一試合といえ、経験の少ないものにとっては大きな糧となるだろう

 

庄治「お〜い」

西郷「お。庄治先輩」

 

試合後、しばらくして嘉勢の付き添いで、グラウンドから離れていた庄治が戻ってきた。

嘉勢の姿はそこには見られなかったが、後に病院につれて診察を受けていると聞く

 

嘉勢を除く全員が、グラウンドに集合する。

そして、1年ぶりの歓喜に。先輩たちが酔いしれ、後輩もつられて一緒に騒ぐ。

 

 

こうして、彼らは大きな一歩を踏み出したのだった。。

 

 

吉見兄「壮真!」

吉見「何?兄貴?」

 

小宮山同様、まだまだ幼さが残り、あけどない表情の笑顔を浮かべる吉見に、兄が詰め寄った。

 

 

吉見兄「俺の、あの言葉の意味を。ようやく理解かけてきたようだな・・・」

吉見「いや。俺は俺のやり方で行くつもりだよ。兄貴と違ってね」

 

 

輪の中から、少し外れたところでの吉見兄弟の会話だ。

 

何か、雰囲気が重たい。

それに気付いた選手たちも何人か居たかもしれない・・・。

しかし、勝利の余韻に酔いしれ、誰も気に止めはしなかった。

 

 

 

 

結局会話に気付いたものは、辺りには誰もいなかった。。

 

 

 

 

吉見兄「壮真。お前は本当に恵まれてるな。良い仲間に出会った。だけどな、壮真・・・」

 

 

 

一瞬。彼等兄弟の仲。そして小宮山の脳裏に一瞬冷たい風が吹きつけた・・・・。

別に気付いた訳ではない、反射的に何か冷たいものを感じて、ふと振り向いた。

 

 

 

吉見兄「何の為に・・・何の為にはるばる転向してきたか。良く考えるんだな・・・・」

 

 

吉見「あ・・・あぁ。わかってるよ・・・」

 

 

 

小宮山はその一言だけを、偶然にも聞いてしまった。

 

だが、その空気、痛々しいほどまでに伝わってくる何か。

 

‘吉見壮真‘突如現れた好選手だったが。

 

そして、兄のあの一言。

 

 

小宮山「(何だよ・・・あの空気は・・・・)」

 

 

そして、その場に飲み込まれたかのように

小宮山はその場に立ち尽くした。

 

数分、周りの声が耳を通さなくなった。。

 

 

 

続く