第11話『来たり時、因縁の顔合わせ』

 







 

 

 

 

 

じゃーじゃーじゃんじゃん

 

朝6時30分。まだまだ明朝と言えるこの時間。

二階建ての一軒家、どこにでもあるようなごく普通の家に携帯のアラームが鳴り響く。

 

一人の少年、小宮山太一の一日が始まる。

 

まだ眠そうな表情を浮かべる少年に対して、ベットの近くに置いた携帯電話は容赦なく音楽を鳴らしながら暴れまわる。

 

小宮山「くそっ、うっせー・・・・」

 

自分で設定したとはいえ、やはりあまりに容赦ない騒音攻撃に八つ当る。

あと5分・・あと3分・・・。

そういった自分な対する甘えと、携帯に対する抵抗で時間はどんどん過ぎていく。

 

結局彼が起きるのは、設定した時間より15分遅い、6時45分だ。

 

 

小宮山「はぁ。父さんももう出てるのか・・・」

 

一階のリビングに下りると、既に食パンにジャムを塗って食べた跡が残っていた。

 

ここまで触れることはなかったが、小宮山は父親と二人暮し。

母親のことは自身も知らないが、知らないと言うより知りたくない。

父親も話をしてこないし、何より聞いてはいけないような特別な雰囲気を感じる。

 

とにかく彼はいつも身支度は自分一人でやる。

そんなことはもう慣れっこである。

 

ピンポーン。

 

インターホンがなると、小宮山はカバンを担いで勢い良く玄関へ走っていく。

ドアを開けた先にいるのは、親友の野上。

彼は登校時や今日のような朝練のある日は必ず彼の家を訪ねるのであった。

 

性格が性格だけに、小宮山一人では信用できないのか。。

 

野上「お、太一。起きてるね。じゃあ行こうか」

小宮山「ああ」

 

今日は、残暑が和らいでいるらしく、暑さというものは全くない。

スッキリした気候だったためか、目覚めもよい。

 

そして、あの葛西セメントとの試合以降実施している7時半〜8時10分まで行われる朝練へ。

 

いつものグラウンドへ小宮山達は向かった。

 

 

 

今日の朝もいつもと変わったことは特になかった。。

 

 

朝までは・・・・・。

 

 

 

 

 

いつもと同じ通学路。

ただ、一つ違うのは曲がり角

そう、彼らが向かう先は、学校ではなく河川敷。

 

第二野球部は正式に部として承認されていない為、学校のグラウンドの貸し出しはされていない

だから、適当な河川敷を見つけ、自分達で練習をしている。

 

角を曲がり、河川敷の道をしばらく歩くと、小宮山の学校用のカバンが震えだした。

 

野上は不思議そうにそれを見るが、小宮山はすぐさまサイドポケットから携帯電話を取り出した。

 

野上「おい、太一。携帯は学校で禁止されてるだろ!」

小宮山「固い事言うなよ。バレなきゃいいんだ。バレなきゃ。」

 

確かに、彼の言う事も一縷ある。

誰も気付かずに、こっそり持ってくる分には、教師も他の生徒にも何ら害はない。

まぁこれは筆者の自論であるが・・・。

 

 

小宮山「にしても、こんな時間に誰だ?」

 

 

 

確かに不可解だ。こんな朝早くメールしてくる奴なんて。

慌てて朝、学校の持ち物を聞いてくる奴はいるが。

性格上の問題。いい加減な小宮山にそのメールは一切こないのだ。

 

何か嫌な予感がする。。

 

俺の嫌な予感は不思議と良く当る、不気味だ。。。。

そう思いながら届いたメールを見ると・・・・。

 

 

 

 

送信者は‘吉見壮真‘。

 

 

 

件名『ヤバイ・・・』

 

 

 

 

本文『とにかく早く来い、ヤバイ事になってやがる・・・・』

 

 

 

 

嫌な予感は、的中した。と思った方が良いだろう・・・。

 

まだ的中かどうかはわからないが。

 

だが‘ヤバい‘の内容の内訳の約9割以上‘悪い‘方向性のはずだ。

良い方向性に使う‘ヤバイ‘は相当ハッピーな出来事に違いないからだ。

そして、吉見の性格を考えると、相当ハッピーなことをいちいち人に報告しない。

 

それが彼が考える‘普通の人間‘だ。

 

それらの考えを一瞬のうちに少ない脳みそを絞り上げ纏め。小宮山は結論を出した。

 

 

小宮山「賢時。急ぐぞ。何だかわかんないけどヤバイらしい・・・」

野上「え?」

小宮山「話はあとだ、行くぞ!」

野上「お・・・おう・・・」

 

 

 

こうして。二人は大急ぎでグラウンドに向かった。

 

 

 

 

 

 

一方グラウンド。

 

朝霧に包まれた、どこか神秘的な雰囲気すら漂わせる朝の河川敷。

陽光を浴び、乾いた土を美しく照らし、そこらの芸術品より素晴らしい自然作品を生み出す。

 

そんな一層美しく見えるこのグラウンドで、一つの華がまた散ろうとしている。。

 

 

「とうとう見つけたよ。古橋浩太郎。こんなところで蠢きやがって・・・」

 

 

長髪の青い髪、耳にはピアスを覗かせている長身で美形の男。

顔立ちはもう大人の雰囲気すら漂わせ、どこか冷たい青い目で古橋を見つめていた。

 

古橋「鳥羽崎・・・零。。お・・・お前。どうしてここにおるん・・・」

 

2人組の、話し掛けてきた男の名前は、鳥羽崎というらしい。

鳥羽崎と呼ばれた男の傍らにいる、知的で不思議な雰囲気を漂わせる少年が答える。

 

「いやいや、1年の女子生徒がたまたま立ち話をしていることを聞いてね」

 

古橋「鞘元、お前もかいな・・・」

 

古橋・・・そして、鳥羽崎と鞘元と呼ばれた知的な少年の間で妙な空気が流れる。

すると、しばらく沈黙が続いた後、鳥羽崎が古橋に歩み寄る。

 

古橋「何や・・・」

 

古橋が、反射的に拳を握り。戦闘の構えをとるが、鳥羽崎は古橋の肩をポンッと軽く叩く。

古橋も、油断はしないように、拳を解くが、その額には汗が滲んでいた。

 

古橋「な・・・何やお前ら。何しにきたん!冷やかしなら・・・とっとと帰りや!」

鳥羽崎「そう熱くなるな・・・」

古橋「何やと!!」

 

冷静さを欠いた古橋は、無意識のうちに鳥羽崎の顔面に拳を繰り出す。

しかし、鳥羽崎はその拳を軽々受け止めて、逆に平手で突き飛ばした。

 

古橋「ぐあっ!」

 

突き飛ばされた古橋は、後ろで見ていた門倉に支えられ、転倒は免れた。

冷静さを欠いている為、尚殴りかかろうとする古橋を、門倉と嘉勢は必死で止めた。

 

一方、別件で恨みのある浅間も、今にも飛び掛らんとばかりの勢いだったが、こちらは1年で最も巨漢である西郷によって、羽交い絞めにされて身動きが取れなかったらしい。

 

門倉「古橋、止めておけ。今ココで殴ったら、学校問題だ」

嘉勢「あぁ。女子の人気度もお前よか鳥羽崎の方が圧倒的に上だ。お前の学校での地位すら危ぶまれることになるんだぞ・・・」

 

必要以上に余計なことまで言われ、更に怒りを表にする古橋。

まぁ全て事実なのだろうが・・・。

 

古橋「余計なお世話や!知るかそんなもん、くそくらいだ!」

 

そんな様子を見て、鳥羽崎が再びクスクスと笑い始めた。

不敵に、相手を凍えさせるような、嫌な笑いだ。

 

そして彼は追い討ちをかけるようにこう言い放った。

 

鳥羽崎「門倉に嘉勢か・・・。随分立派なゴミ捨て場だな・・・・」

 

古橋「何やと、もう勘弁ならんで!」

門倉「止めろ、古橋。相手にするな・・・・」

 

さらに怒り出す古橋と、必死で止める門倉。

しかし、門倉も本心は相当怒りで溢れているのだ。

 

自分だって、辞めたくて野球部を辞めたわけではないのに・・・・。

古橋も、門倉も、嘉勢も。皆そう思っているだろう。。

浅間においては、彼女を鳥羽崎に取られたとか何とか。だがもうその件に構っている暇はない。

 

挑発するもの、怒り狂うもの、怒りを抑えるもの。

 

西郷のように、第三者としてみているものからすれば、そろそろ主題に戻って欲しい頃である。

 

だが、一人その第三者にも当てはまらない人物が居た。

 

そのやり取りを、ハラハラしながら楽しんでいる‘第四者‘の存在。。

そして彼が、話を思わぬ方向に進めることになる。。

 

 

吉見「おい、ピアス。えっと・・森本レオ・・・だっけ?」

古橋「鳥羽崎零や!ちっともあっとらんやないか!」

 

怒り狂って、我を忘れてても下手なボケへのツッコミは欠かさない。

これぞ芸人の鏡だ・・・・。。。なんていっている場合ではないが・・・・。

 

しかし、そんな意外な‘第四者‘の登場にも、驚く事無く冷静に対処している鳥羽崎。

そして、変わりに驚いている鞘元。。

 

鳥羽崎「なんだ、このザコは?」

吉見「ザコ・・・ねぇ。鳥羽崎先輩。。」

 

吉見は素早い身のこなしで、鳥羽崎の肩を使って高く飛び上がる。

そして、見事なまでの跳躍で、鳥羽崎の肩に脚をかけ、鉄棒の大技‘蝙蝠‘を完成させた。

 

吉見「外見で判断するのって。随分古くないすか?ねぇ。古橋先輩」

鳥羽崎「ほぅ。こんな奴もいるのか・・・」

 

すると、鳥羽崎は肩にかかっている二本の足を払いのける。

吉見もすぐさま地面に手をついて、ハンドスプリングで見事に着地。

恐るべき運動神経の片鱗を見せた。

 

吉見「(決まった。これで少しはびびったろう・・・)」

 

これが吉見の少しも外に漏らす事無く、心の中に閉っている正直な心情だろう。

しかし、鳥羽崎は冷静さを失う事無く、吉見を変わらず下目使いで睨みつけてくる。

 

吉見も‘うわっ、ヤな奴‘と思いながら、顎を上げて精一杯強く鳥羽崎を睨み返す。

 

一瞬の重苦しい空気の中の静寂・・・・。

 

そして・・・しばらくの睨みあいの後、吉見は鳥羽崎に問い掛ける。

 

吉見「何が目的だ?つーか一体何者なの?」

 

吉見の幼い外見から考えられないほどの度胸満天言動に、驚きを隠せない鞘元。

そして、相変わらずクスクスと嫌な笑いを浮かべている鳥羽崎。

 

鳥羽崎「ああ。そうだったな。俺たちはね。君達が目障りなんだよ。だから今日限りで君たちには消えてもらおうと思ってね・・・」

 

冷静に言い放つ鳥羽崎に対し、先に吉見が熱くなる。

 

吉見「は?意味がわかんねぇよ・・・。目障りって。どういう意味だ!?」

 

すると、鳥羽崎が語る前に、鞘元が言う。

 

鞘元「い・・いや。別に目障りな訳じゃないけど。どうも野球部が二つに分かれるのは戦力的に考えても効率的に考えても可笑しいな・・・って思って・・・」

吉見「だから消えろってか?あぁ?大体お前らと野球部と何の関係があるんだよ!」

 

鞘元「それは・・・かくかくしかじか・・・・」

 

 

 

 

 

 

野球部は挑発的な言動を繰り返す鳥羽崎に変わり、鞘元が。

第二野球部は、怒り狂った古橋、吉見に変わって門倉が会話に踏み出す。

 

そして、両第三者的存在により、協議が進められる・・・。

 

 

 

 

 

鞘元「って訳だ。別に俺がどうとかじゃない。部全体が、知ってしまったからには見逃せないって言う意見なんだ。悪く思わないでくれ・・・」

門倉「って言われてもなぁ・・・・」

 

 

鞘元が言うにはこうだ。

 

鳥羽崎と鞘元は野球部のバッテリーである。

そして、野球部の繁栄を何より大事に思い、野球に取り組んできた。

しかし、そんな時、偶然にも第二野球部の存在を鳥羽崎が知ってしまった。

噂が部全体に広まった。

これでは有望な新入生が第二野球部に流れる可能性がある。

それに、第二野球部は正式な承認は得ていない。

 

よって、廃部にする・・・。

 

こういったファシズム的な考え方である。

温厚な門倉と言えど納得がいくはずがない。。

 

門倉「う〜ん。この俺が納得できないんだ。血の気の多いアイツらが到底納得するとは・・・」

 

門倉、そして鞘元が怒り狂う古橋、静かに怒る吉見の方をチラッと覗く。

やはり・・・はい、そうですか。。の雰囲気は微塵もない。

 

鞘元「とは言え、鳥羽崎達は、ここで解散させなくても校長に抗議する気満々だ・・・」

 

そして、一応鳥羽崎の様子も確認するが。

こちらも一歩も引く様子はない。。

 

門倉「鞘元。こうなったら手段は一つしかないだろ・・・」

 

そう言うと、門倉は鳥羽崎にグラブを投げ渡し、バットを担ぐ。

 

門倉「3球勝負。俺を抑えたらお前らの要望を聞いてやる。その代わり、俺が打ったら存続を認めろ・・・いいな。鳥羽崎・・・」

 

すると鳥羽崎が、クスリと笑って言い放つ。

 

鳥羽崎「負け犬が言うじゃないか。」

門倉「今のうちに・・ほざいてろ・・・」

 

 

第二野球部の存続を賭けて

野球部のエース鳥羽崎と、第二野球部の4番門倉が対決することになった。

勝負は3球。。

 

今、第二野球部の運命を大きく左右する。

最も意味のある打席に、第二野球部の4番、門倉が挑む。。

 

 

 

続く