第12話『屈辱・・・絶望への抵抗』
ここはグラウンドから400m離れた河川敷の道 二人の小さな少年が、視界にくっきり入るようになったグラウンドに向かって必死に走る。 まだ、小宮山と野上の二人は、グラウンドで何が起きているか全くわかっていない。
小宮山「おい、急げよ賢時ぃ!」 野上「はぁはぁ、待ってよ。太一が速いんだよ・・・」
やはり二人の走力の違いは歴然。 野上のペースに合わせている小宮山は、苛立つ一方だった。
小宮山「おい、もう俺先に行っていいか?」
ついに野上に最終宣告は言い放つ。 しかし、野上は首を横に振りながら必死に小宮山に喰らいつく。 それをみた小宮山は無言のまま、走り続けた。
ただひたすら・・・・。
だが、そのゴールで見た光景は。あまりにも残酷な光景だった。
その‘意味‘すらわからないまま、その光景を呆然と眺めている小宮山と野上。 何だかわからないが、察しが良いのか、再び小宮山の脳裏に冷たい物が走っていった。。
ストライーク・・・バッターアウト。。
俺の視界に入ったのは、マウンドから降りてくる青髪の青年だ。。 先ほどの一球、打席の門倉先輩の得意球、高めを投じたのにも関わらず、空振りを奪う。
鳥羽崎「終わりだ。大人しく散れ。。」 門倉「・・・・俺は・・・・負けたのか・・・・」
120km/hは出ていただろう。だが、それ以上に何かを感じる。 雰囲気、威圧感、それとも他の何かが・・・・。 そして、最後の言葉の意味。ただの‘決め台詞‘でしかないようだが。 何か意味があるような気がした・・・。
吉見「あ・・・おい、鳥羽崎!逃げるな!次は俺が・・・」
聞き覚えのある声が、グラウンドに木霊する。 鳥羽崎・・・それがコイツの名前なのか。
俺の頭の中で、何が何だかわからなくなった。 そんな中、青髪の鳥羽崎と呼ばれた奴が、俺の目の前に歩み寄ってくる。
彼の何処か冷たい手が、俺の帽子を取って額に掌を当てきた。
小宮山「な・・何だよ・・・」
すると、鳥羽崎は小宮山の背を抑え、顔を押さえ込む。 自然に顔が上を向き、嫌でも太陽が視界に入ってくる。 この程度、抜けようと思えば抜けられた。
しかし、ただならぬ雰囲気。初対面のはずなのに、どこか不思議なこの感覚。 何処か、初めてでない感じがした。遠い昔。あるいは前世なのか・・・。 小宮山は何故か、この冷たい皮膚の感覚が、僅かに暖かく感じたのだ。。
小宮山「(・・・・・なんなんだ。一体。。この懐かしい感じは。)」
しばらくすると、鳥羽崎が小宮山の額から手を放した
鳥羽崎「なるほどな・・・ただの噂じゃなかったようだな・・・」
鳥羽崎はどこか意味有り気な台詞を吐き捨て、小宮山を突き飛ばした。 そして何かをわかったかのように、鳥羽崎は軽く頷き。またクスクスと笑い出しグラウンドを去っていった。
何がなんだか全くわからなかったが、ただただこれだけは感じられた。
自分の知らない・・・何かを探られた・・・・。
だが、覆らない現実。
門倉は勝負に負けて、第二野球部は廃部になる。 小宮山達はこの事実をまだ知らないが、ちらほら選手たちが口にする‘廃部‘と言う言葉で、なんとか現状を説明なしで察知することができた。
浅間と吉見は抵抗した。
吉見に置いては、門倉より打力が勝っている為。それなりの自信があったのかもしれない。
しかし、約束は約束だ。
結局、抵抗虚しく、散っていくことになるのか・・・。
第二野球部の歴史は、ここで終わってしまうのか・・・・・。
静寂が辺りを支配した。
立ち去る鳥羽崎と鞘元の姿は、次第に小さくなっていく。
その刹那。
小宮山がが鳥羽崎達の下へ飛び出した。
そして・・・・。
小宮山「あの・・廃部にしないで下さい。お願いします・・・」
野上「!!」 門倉「!!!」 古橋「な・・何やて!」 吉見「・・・・・」
小宮山が、鳥羽崎を追った。 追って・・そして、頭を下げて。頼んだ。 ‘廃部にしないで下さい‘と。。
考えられない話だ。
特に小宮山はこの第二野球部に未練がある訳でもない。 暗い過去を持っているわけでもない。 だからといって、特別野球が好きで、野上のように必死に取り組んでいる訳でもない。
どういうことだ。
人に真剣に頭を下げて頼むようなことは、今まで一度もなかった小宮山の姿を見て。 第二野球部のチームメイト、そして、幼馴染の野上は驚きを隠せない。。
小宮山「お願いします・・・」
小宮山は深々と、微妙に伸びきって、軽く整った髪の毛を揺さぶらせながら再度頭を下げる。
そして、そんな熱意に。遂に鳥羽崎が応じた。。
鳥羽崎「二週間後だ。場所は学校のグラウンド。話はつけておく。そこで条件は同じ。試合で決着をつける。それでいいか。」
思ってもみない返答に、小宮山の顔から曇りが消える。 そして少し遠くで唖然としてやり取りを見物しているチームメイト達に向かって、ニカッと微笑んでみせた。。
門倉「・・・・小宮山の野郎。柄にもないことしやがって・・・」
くだなないプライドが邪魔して、頭を下げることが出来なかった門倉。 勝負に負け、廃部は仕方ないものだと思い込んでしまった。
門倉「俺は自分の事ばっかりで、チームのことを何一つ考えていなかった。すまない」
自分の自覚心から芽生えたとは言え、自分一人で運命を背負って立った勝手な行動。 そして、自らのプライドを優先し。チームを潰しかけてしまったこと。
門倉は自分の行動を反省し、チームメイトに頭を下げた。
もちろん。門倉を責める者は、誰一人いなかった。。。
本当の対決は。一週間後に控えているのだから・・・。
続く |