`第13話『空白の一年前@』

 



 

 

 

 

 

 

沸き上がる歓声、見渡す限りの芝生。

遥か遠くに見える、電光掲示板に載った自分の名前。

 

「バッターは小宮山君」

 

この広い大地に、自分は確かに立っている。

不思議と、こんな大舞台なのだが緊張は全くしていない・・・。

 

相手投手が振りかぶって・・・・

 

 

投げた・・・。

 

 

白球は、物凄い速度で顔面に向かって来る・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

コーン

 

 

 

 

 

 

 

小宮山「あぎゃ!」

 

わははははは!!!!!

 

小宮山「!!?」

 

その刹那、自分の視界から広い大地と、遠くに見える電光掲示板が消えた。

そして、自分に命中したはずの白球は、なんとチョークに変形して地面に転がっていた。

歓声だけは、姿形を変形させて、かろうじて残っているようだったが。。

 

小宮山「ここは一体!?」

 

一定の規則に従い、何の面白みもなくただ並べられてるだけの机と。

難しい漢字(そう感じるのは彼だけなんだろうが・・・)で埋め尽くされた黒板。

そして、目の前に立ちはだかる、熊のようにごわごわとした中年の男。

 

目の前の光景のギャップが激しすぎて、小宮山は軽いパニックに陥っていた。

 

 

「おい、小宮山。俺の授業中に寝るとは良い度胸だな・・・」

 

黒板の前に立っている、中年の男が小宮山を怒鳴りつける。

 

小宮山「あーー、お前。社会の熊田!どうしてここに!!」

 

その瞬間、中年の男はカッと赤くなって怒りを表にした。

そして、小宮山がようやく。先ほどまでの光景が夢だったことに気付き、慌てて口を塞ぐ。

 

しかし、時既に遅し。

 

パニックに陥っている小宮山は、中年の男。

すなわち社会の教師である‘熊田先生‘を呼び捨てにしてしまった。

まぁ陰で呼び捨てていれば、こう言うときについ出てしまうものなのだろうが・・・。

 

ちなみに、この教師。学校に一人は必ず居る名物先生である。

 

一筋縄ではいかない・・・。

 

熊田「俺を呼び捨てにするとは良い度胸だ。よし、その度胸を買って長年封印されつづけてきた秘伝の技‘チョークマシンガン‘を食らわせてやろう」

小宮山「・・・・・・ぉぃぉぃ」

 

そのどうでも良いネーミング通り。

小宮山は次の瞬間、無数に飛んできたチョークを全てまともに受けてノックアウト。

その後はお約束の‘廊下‘へ直行。

居眠りの代償はあまりにも大きかった。。

 

 

 

 

 

 

ようやく、鐘が校内に鳴り響き、長い授業の終わりを告げる。

生徒達は休み時間で授業から離れ、教室移動や雑談に時間を費やす。いわゆる休憩時間だ。

 

 

古畑「全く。居眠りに加え熊田先生に暴言だもん。太一には別の意味で尊敬しちゃう」

小宮山「ははは・・うるせぇ」

 

社会の教師、熊田が去って。ようやく開放された小宮山に一番に話をかけたのは、同じクラスの女子で、小宮山の幼馴染の古畑茜であった。

1話で登場して以来、ずっと筆者SHANEの頭を悩ませてきた女性キャラの一人だ。

はぁ、ようやく登場させることが出来たと言うのが本音だ。

 

古畑「でも、太一も見直したよ。野球頑張ってるんだって!?」

小宮山「まぁな。俺にかかればどんなスポーツだってベターイージーよ」

 

古畑の発言に、鼻高々自信満々に答える小宮山

 

古畑「ベリーイージーでしょ。バカ。」

 

しかし、伸びきった鼻を。キツイツッコミにより一瞬で折り曲げられる。

お互いに笑いながら、楽しい時間を過ごす。

もちろん、まだお互いにあくまで幼馴染としてなのだが・・・・。

 

 

吉見「ちーっす。邪魔するぜ。太一」

西郷「入るぞ〜」

 

突然の吉見と西郷の訪問に、古畑は慌てて顔を赤らめながら逃げ出す。

小宮山は‘おいおい‘と言う表情で、それを目で追うが、すぐに視界を吉見と西郷に移す。

 

吉見「邪魔だったか?」

小宮山「いや、別に。いつも一緒だから。な、茜」

 

小宮山は悪戯の蜜を十重に含み、色目を効かせて古畑に語りかける。

 

古畑「ちょ・・・何言ってるのよ!・・あはは、気にしないで。ただの幼馴染だから・・・」

 

そして、それを若干恥ずかしがりながら否定する古畑。

悪戯だとわかっているにしても、どことなく恥ずかしい・・・。

 

西郷「お前の隅に置けないな・・・」

吉見「いや、お前が隅に置かれてるんだと思う・・・・」

西郷「壮真・・・世の中には言って良い事と悪いことがあるんだ・・・よぉく覚えておけ」

吉見「・・・・ゴメン、調子に乗り過ぎた・・・」

 

小宮山「で・・・・一体何の用だよ・・・」

 

ミニコントのような会話を勝手に繰り広げる二人に対して。

小宮山が若干苛立った口調で、本題に移らせようとする。

 

そうすると、吉見が西郷と顔を見合わせ、軽く頷き語りだす。

 

吉見「あぁ。あのさ。アレから古橋先輩の様子がどうも変なんだ・・・」

小宮山「古橋先輩・・・あの、関西弁の人か」

西郷「どう考えても今の確認はいらないだろ・・・・・」

 

西郷に突っ込みを入れられると、吉見も軽く何度か頷く。

小宮山は軽く悪戯笑いを浮かべながら、続きを問う。

 

小宮山「変?ってどう言う事??」

 

鸚鵡返しに、更に一言加え、吉見に聞き返す。

そして、その様子を察知した野上も、彼らの輪の中に加わった。

 

野上「それ、俺にも聞かせてよ」

吉見「あぁ。賢時もいたか、話す手間が省けたぜ・・・」

小宮山「いいから早く言え」

 

3分ほど、吉見の説明が行われた。

そして・・・・・

 

吉見「とにかく、古橋さんヤル気ゼロみたいなんだ。どうするよ?」

 

簡潔に説明すると、二週間後に迫る試合。

それも、せっかく貰った存続を賭けた第一野球部との試合に対し。

古橋のヤル気が失せてしまっているらしい。

 

西郷「信じられないよな、あの古橋先輩が、あの一件からこうも変わるなんて・・・」

小宮山「あの人が一番燃えてもいいはずなのにな・・・」

吉見「とにかく、あの鳥羽崎との一件が関連していることは間違いなしだ」

 

西郷、小宮山がそれぞれ。解答とは、全く関係ない率直な感想をそれぞれ述べる。

これこそ、第二野球部全ての人間の率直な感想でもあるだろう。

それほど、古橋のテンションダウンは想像できるものではないのだろう。。

 

野上「で・・でも、一度確かめてみないことには・・・ねぇ」

 

信じきれない野上が、口を開く。

他の3人の同意も得て、古橋の在籍する3年3組に様子を見に行くことにした。

 

 

 

 

小宮山「と・・・来て見たけど。俺たちとはサイズが違うなぁ・・・」

吉見「1年だと、西郷が浮いてるけど。ここでは俺たちが浮いてるなぁ・・・」

 

3年教室付近。

やはり3年の生徒はでかい。

 

それに、1年生がココに居ることは珍しいため、視線を集めている気がする。

小宮山、吉見に置いては、愛敬があるためか。通りすがりの3年の女子達に、すれ違い様に頭を撫でられることもしばしば。

 

吉見「お・・おい、早く古橋さんを探しちゃおうぜ!」

小宮山「そっか?俺はこれで結構気分いいかもよ・・・」

吉見「お前はココで永久に寝てろ。」

 

そんな他愛もない会話をしながら、右往左往するうちに、遂に3年3組の教室を見つけた。

 

西郷「長旅だったな・・・」

 

そこには、机に顔を伏せている古橋と、その古橋に何かを強く訴えている様子の門倉の姿が会った。

確かに、彼らの中には、いつもと違う雰囲気が流れているような気がした。

それを感じているのは、今回は小宮山だけでなく全員だ。

 

こりゃあ、本当だ。。

 

そう思った野上と小宮山。そして状況を再確認した吉見と西郷は顔を見合わせる。

 

小宮山「おい、やっぱ正面から突っ込んでこうぜ」

吉見「冗談じゃねぇよ。3年の教室だぜ!」

小宮山「だからなんだよ、問題でもあるのか?」

野上「太一は本当に能天気だよね。そんなことしたら他の3年生に殺されちゃうよ」

西郷「じゃあどうする?賢時、考えがあるんじゃないか?」

 

小宮山の意見を否定する野上の様子を見て。

西郷は野上に話を振る。

 

すると、野上が待ってましたと言わんばかりに軽く咳払いをして3人の視線を集める。

 

 

 

 

野上「今の古橋先輩に、何を言っても無駄だよ。こう言う時は、本人ではなくて一番身近な人物に聞いてみるのがいいよ。それに、古橋先輩は、絶対過去に鳥羽崎さんと何かあるんだと思う、その事をまず、誰かに聞くことから始めた方が良いよ。今回の件。なんだか奥が深いような気がするんだ・・・・。」

 

 

 

 

 

冷静で、的確な野上の意見に、3人は迷わず同意する。

 

小宮山に至っては‘ナイスアイディア‘と言わんばかりに野上の頭をバシバシ叩く。

 

西郷「そうなると、誰にあたるんだ?あの様子だと、門倉先輩も平常心じゃないぜ」

小宮山「と、なると浅間先輩か。嘉勢先輩か・・・」

吉見「いや、あの人達は古橋さんのこと陰で嫌ってるっぽいぜ。あくまで推測だが。」

小宮山「わかる。そんな感じする。俺も推測だけどね」

野上「武藤先輩には近寄りがたいしね・・・」

 

一応ココで解説を加えておく。

 

門倉は第二野球部の4番打者で、野球部エース鳥羽崎に勝負を仕掛けた男。

嘉勢はショート、捕手と器用な1番打者。前の試合で怪我をして、今はショートを守る。

浅間は不良少年で、初心者だが気力だけはあり、何気に器用な一面も持つ先輩。

武藤は肩が壊れ、ボールが投げられないが、打撃だけは超一流の代打の切り札だ。

 

他にも。畑中、中浜、庄治と補欠組が居るが。

朝錬には参加していない為に事情はわからない、同じ状況だろう。

そして残る9番打者の真上は2年生だ。

 

吉見「おいおい、いよいよどうしようもなくなってきたぞ」

 

自分達が、話せる立場にある先輩たちが、ドンドン候補から消えて行き。途方にくれる吉見。

小宮山も野上も完全にお手上げ状態だ。

そんな中、誰も期待していない西郷が口を開く。

 

西郷「古橋時雨・・・・って、知ってるか?」

小宮山「え?」

西郷「うちのクラスの女子にいるんだ。俺、自分で言うのもなんだけど、奥手だから中々女子に話し掛けたり出来なくてさ・・・確認はとってないけど・・・なんとなく似てるって言うか・・・」

野上「そうか!兄妹かもしれないって訳ね。」

西郷「何より住所が一致する!」

小宮山「オイ、それを一番最初に言え!」

吉見「う〜ん、他に当てがないんだから、行ってみるしかないよね」

 

ようやく見つけた手がかり。

4人は結局、1年生の教室付近に戻ることにした。

 

だが、戻ったところで新たな問題点が浮上した。

 

野上「ところでさ、誰が話しつけるんだ?」

吉見「そりゃあ、同じクラスなんだから、ねぇ・・・」

 

吉見が目線を一気に高くして、西郷の方をじっと見つめる。

 

西郷「お・・・俺は嫌だよ。絶対にムリだ!!」

吉見「何だよ、他に好きな子でも居んのか?」

西郷「う・・・うるさいっ!とにかく駄目なもんは駄目なんだ!!」

 

西郷のこんな慌てた姿は、出会って以来始めてだ。。

この慌てようから残りの3人の脳内では恐らく‘図星だったのだろう‘で片付けられているだろうが・・・。

 

野上「仕方ないか。じゃ、太一やれば・・・」

 

野上が、渋々小宮山を推薦した。

小宮山は昔から結構陽気な性格で、結構人気があったし。

なにより日課が‘スカート捲り‘とか‘更衣室覗き‘なだけあって、女には強い。

 

小宮山は待ってましたと言わんばかりに、小悪魔のような嫌らしい目で、野上を軽く睨み。

悪戯っぽい表情を浮かべ‘任せろ‘と妙な自信を覗かせ、古橋の妹っぽい人物の居る1年4組の教室に直行した。

 

西郷「ふぅ、これでもう問題と言う問題は解決済みだ。あとは俺達はココで待つばかり」

野上「太一って良くアレでモテるよ・・・羨ましい。。」

吉見「お前は純粋で真面目過ぎるからいけないんだよ・・・」

野上「・・・・もう良いよ・・・」

 

ようやく、一段落ついて、その場にペタンと座り込む。

あとは、口説きのプロ、小宮山の帰りを待つばかりと思った。。

 

しかし・・・・

 

小宮山「おい、駄目だ。ムリ。あいつだけは絶対にムリな訳があんだ・・・・」

 

吉見「は?」

 

 

 

一体、小宮山すら口説けなかった女子‘古橋時雨‘とは。。

 

全ての謎が解けるのは、まだまだ先になりそうだ・・・。

 

 

 

 

 

続く