第14話『空白の一年間A』
小宮山「駄目だ!絶対に無理だ。」
新たに疑問点が浮上したところで少し話を戻そう。
今朝、グラウンドに野球部のエース、鳥羽崎と部員の鞘元が訪れて来た。 そして『廃部』を言い渡した。 古橋が、浅間が、吉見が怒り狂う。 しかし、そんな中冷静に門倉が存続を賭けた勝負を仕組む。 勝負は負けるも、小宮山により二週間後に『試合』を行い、存続を決めることにする。
だが、それ以来、もう一人の主将格、古橋の様子がおかしい。 以前の元気な関西弁が影を潜め、すっかり何かを考え込んでいる様子らしい。 このままでは、試合どころではない。本人の様子を確かめようと、実際に見に行った。 すると、事態は思ったより深刻。門倉も冷静さを欠くほどの重症だった。
今本人と接触しても、何の解決にもならない。 その場凌ぎで解決しても、何の意味も無い。 そう踏んだ野上は、西郷のクラスの古橋と同姓の女子、兄妹である生徒を訪ねる事にした。
だが、その役割を買って出た小宮山が、帰ってきてしまった。 小宮山をも恐れさせる、古橋の妹とは一体、何者なのだろうか・・・・。
小宮山「おい、賢時。。俺、入学の時の自分の行動をとことん後悔してる・・・」 野上「入学・・・ってたって。前科の多すぎるお前だから。何のことだかさっぱり・・・」 小宮山「入学当時、一番最初にスカート捲った奴・・・それが・・・」
野上の背筋に冷たいモノが走った・・・・。
野上「まさか・・・・」
小宮山「あぁ。そいつが4組の古橋だった。」
野上「気まずいなぁ・・・」
1話を読み直してもらえばわかるはずだが。 小宮山は自分の抜群の運動神経を生かして、変態的行動を繰り返していた。 そして、古橋の妹もその犠牲者の一人だ・・・。
吉見「どうする?太一も西郷もアウトだぜ・・・・・」 西郷「原則的に壮真か賢時だろ。」 野上「ええっ、俺。女の子とか全然駄目だし・・・」
あーでもない、こーでもない。 休み時間もそろそろ終わりに近づいてきている。 そろそろ結論を出さなければならない。
そんな時、小宮山が口を開く。
小宮山「俺にいい考えがある!素早く、平等に、かつ確実な方法が・・・ね。」
自信満々にそう言い放ち、いままでに無く周囲の期待を背負う。 いったい、どんな案なのだろうか・・・。
小宮山「ジャンケンで決めんぞ!」
期待させた矢先の、あまりにも軽率で誰もが脳内に閉っておいたこの意見。 小宮山を除く三人は、思わず溜め息を漏らす。
小宮山「なんだよ、素晴らしい提案だろ!?」 吉見「まぁ他に意見が無いんだ。一発で決めようぜ・・・」
勝負とは、あまりにも残酷なものだった。。 何と、あまりに確率の低い‘一人負け‘と言う、最悪なシナリオを野上に用意したのだ。
野上「・・・・こんなのって、普通にあるか?」 吉見「まぁこれも運命だ。ガンバ。。」 野上「憂鬱・・・緊張する・・・」
結局、野上が一人で。古橋の妹の居る1−4の教室を訪れて。 兄の古橋浩太郎の、退部騒動の真相を確かめることになった。。
ガラガラガラ・・・。
野上が教室の窓を開ける・・・。 後ろで他の3人が、息を殺しながら見つめている。
男子生徒「あれ、お前。壮真達とつるんでる。小宮山って奴じゃないか?」 野上「い・・いや。俺は・・・その・・・違うけど。。あの、古橋って人・・いるかな・・・」 男子生徒「古橋?あぁ、居るけど、まさかお前らできてるとか?」 野上「ち・・・違うよ。野球部・・・あ・・違う。古橋先輩の事できききたいことがあって・・・」 男子生徒「あ・・・そう、ちょい待ってろ。読んでやる・・・」 野上「あ・・・どうも。。」
そんな様子を、上手に三段重ねになって見ている西郷、小宮山、吉見の三人は、初めて舞台に上がる漫才師を見ているような様子で野上の様子を見ていた。
小宮山「おいおい、既に上がってんぜ。賢時の野郎」 吉見「流石にアレは危険すぎるぜ。」 西郷「おい、どうでもいいけど重たいぞ。暴れるな・・・」
そして、遂に教室側の窓から、古橋の妹らしき人物が登場した。
古橋妹「誰。うちに用って・・・・」
妙に気の強そうな女子が出てきた。 顔つき全体は、兄の古橋浩太郎の似ついた感じはしないが。 部分部分似ている。。
なにより、この関西風の顔立ちは、まさしく古橋そのものだった。。
まぁそんなものは勝手な解釈なのだろうが。。
野上「あ。いきなりゴメン。。あのさ、古橋浩太郎先輩の。妹・・・だよね。。」 古橋妹「浩太郎・・・・!!?」 野上「え!?」
急に表情が崩れた。僅かに穏やかだった表情が、次第に崩れていく。 いや・・・怒ってる・・・・のか?と表現するのが精一杯正しいのだろうか・・・・・。
古橋妹「知らないよ。あんな奴。どうせ野球部をクビになった落ちこぼれ・・・」 野上「ああ・・・そう、そのこと・・・ああ・・」
バンッ
話の主導権を、握られっぱなしの野上。 そんな彼を見るに見かねて小宮山が飛び出してくる。
小宮山「あぁ。あの関西弁がなんで野球部を辞めさせられたか教えろ。そんだけだ!」 野上「た・・・太一・・・」
野上は内心「こんなんだったら最初っからお前が話をつけておけよ」と思ったが ジャンケンと言う勝負事に負けた事実が、彼の口をギュっと結ばせた。。
古橋妹「あ・・・あんだ誰?・・・・あれ・・・どこかで。。。」 小宮山「気のせいだ!話を聞かせてくれ!!」
強引に話を進めつつ、顔の半分が野上に隠れるようにする小宮山。
古橋妹「あー、まぁいいけど・・・・一つ条件が・・・・ある・・・条件ってか。。まぁ・・・うん」 小宮山「俺にできることなら飲む。」 古橋妹「言いにくいんだけどね・・・・」 小宮山「もったいぶるなよ。。早く言え・・・」
静寂が走り、古橋の妹も少し緊張した様子で小宮山に少し近づく。 どうやら、大きな声では言いたくないらしい。。
そして・・・・その条件が。今明かされた。。。
古橋妹「アンタ達と一緒にいる。一番小さい子。あの子・・・うちに紹介してくれないかな・・・」
小宮山「・・・・・壮真・・・・かな。。」
別に飲めない条件じゃない。。 だが、あまりにも意外な展開に、小宮山はもちろん、野上も驚きの表情を浮かべていた。 まぁ小宮山達にとっちゃ吉見がどうなろうと知ったことではない。
むしろ今回の件に関しては吉見は全く役に立っていない。 そろそろ働いてもらおうか。。 そして、都合の良いことに彼女は西郷と同じクラスなのである。
小宮山はまた得意の、悪戯っぽい笑みを浮かべる。。
小宮山「そのことだったら、このクラスの西郷が仲がいいんだ。そいつに聞けば良いよ。」 古橋妹「あ・・そうなん。わかった、ありがとう。あっ、うちは古橋時雨。ダメな兄の訳わからん戯言に付き合ってもろうてわるいね」
キーンコーンカーンコーン
丁度その時、休み時間終了のチャイムが鳴った。 その瞬間小宮山は、野上の肩口使い、空高く舞う。 天井に張ってある飾り物の横断幕の紐にぶら下がり、身軽な身体を利用して10m程跳躍する。 そして、チャイムが鳴り終わる寸前に教室に入り、遅刻を逃れる。
もちろん自分だけだが・・・・。
野上「た・・・太一の奴・・自分ばっかり・・・」
完全に利用され、自分だけ時間に間に合わなかった野上は珍しく怒りの感情を表にする。 だが、そんな野上の横で、更に激怒する存在に気付いた。。
野上「古橋・・・さん??」 古橋妹「思い出した・・・入学した時の奴。。アイツだ・・・」 野上「・・・・」
最後の最後、小宮山の美技に入学当時の恨みを思い出されてしまった。。 かなりの怒り具合だったので、真剣に野上も焦った。。しかし。。
古橋妹「まぁええわ。吉見君には代えられないしね・・・」 野上「・・・・」
何はともあれ、古橋の妹。時雨との接触が叶った1年組。 しかし、一体古橋は何故、野球部を退部になったのだろうか・・・・。
続く |