第17話『運命の糸』

 

 

 

 

 



















 

 

 

約束の刻が来た・・・・。

 

あの時、あの日、あの場所で結んだ。

振り返れば早く、過ごせば気の遠くなるような時間だった。。

 

 

時を超えて、かつての仲間は、再びその場所に集う。。

 

 

 

鳥羽崎「まさか・・・、お前がここで待っているとはな。。」

古橋「お前こそ、まさか来るとはおもわんかったわ。。」

鳥羽崎「じゃあ何故来た!」

古橋「罰金とったろ思うてな・・・、でも、来てもうたもんはしゃーない」

鳥羽崎「言ってくれるな。。」

 

 

お互いに、あの頃の関係とは程遠い何かが感じられる。。

しかし、この場所が、彼らのそんな壁に、僅かに風穴を開けているのだろうか。。

 

 

鳥羽崎「古橋。もう一度聞く。何故お前は野球部を辞めた!何故あの時、理事長の言う事を聞かなかったんだ・・・。」

 

鳥羽崎が静かに、古橋に語りかける。

 

古橋「何や、そんなことかい。あれはただアイツがムカツいたんで、辞めてやっただけや」

 

古橋は、真剣な鳥羽崎から目線を意図的に逸らし、さらっと言い放った。

しかし、鳥羽崎にとって、決して納得できる解答じゃなかった。

 

鳥羽崎「本当にそんな事なのか。お前にとって、野球は結局そんなちっぽけなものだったのか!」

 

冷静な鳥羽崎が、声を荒げ、古橋に詰め寄りながら言う。

古橋はそんな鳥羽崎を睨み、すかさず言い返す。

 

古橋「そんなんや無い!俺だけやない、アイツらだってそうや。心無い一部のドアホや理事のおっさんのせいで野球できへんなったあとも。必死に頑張ってきたんや。」

鳥羽崎「あんな雑魚共とか。お前と話していても埒が開かんな。。」

 

古橋が言い終わる前に、鳥羽崎が再び冷たく言い放つ。

アイツら、雑魚共を指す者は恐らく、門倉と嘉勢の事だろう。。

 

鳥羽崎「お前はあの時、俺に言ったはずだ『どんなことがあろうと、めげたらあかん』ってな、あの言葉は何だったんだ。結局、その場限りの奇麗事だったのか!?」

 

鳥羽崎が、再び古橋に強く語りかける。

古橋は、ただ首を横に振って、俯いているだけだった。

 

鳥羽崎「俺にはわからん。お前が野球部を辞めた理由がな。だけど、お前が考えもなしに、野球部を辞めるはずが無い。。違うか??」

 

古橋は顔をハッと上げて、鳥羽崎に目線を合わせる。

 

古橋「何が言いたいんや!」

 

すると、鳥羽崎は一度ふうっと息をついて、静かに言った。

 

鳥羽崎「事の真相を聞かせろ。これ以上、無駄な嫉み合いはしたくない・・・・」

古橋「真相・・・たって。。」

鳥羽崎「聞かせてくれ・・・・・」

 

鳥羽崎が、静かにそう言うと。あたりはすっかり静まり変える。

当たりにはススキが揺れる音、虫の声だけが、小さく木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古橋「あの時・・・・・俺は、理事の話を立ち聞きしてもうたんや・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

1年前・・・・。彼らは秋の大会が終わり、三年が引退、解散後。校庭に戻ってきていた。

2年生31人。引退した3年生の2倍に値する。過去最高の部員数だ。

そんな中、背番号を付けた二人の部員がいた。

 

背番号10。二年時から二番手エース。いや、年功序列でエースこそ譲ったものの、大切な試合は全て先発マウンドを任されていた。二年、鳥羽崎と。

右の外野手として、最後の最後までレギュラー争いを演じた背番号18の古橋。

 

彼等は秋季大会の敗北をバネに、次回大会に向けて意気込んでいた。

 

 

 

 

 

 

しかし・・・・、この世代交代が、野球部の一つの分岐点となった。。

 

 

 

悪い意味での・・・・。

 

 

 

 

暴力事件以来、顧問が不在の野球部だが。

学校の管理下にあるものだ。。

そして、その管理権を握る、理事から、野球部の問題点が上がった。

 

 

 

それは、部員の片寄り。。

 

31人の野球部員は、他の部の人数減少や、弱体化に繋がると言う判断だろうか。

部員の削減を提案してきた。

当時、主将候補に上がっていた鞘元が交渉に応じたが、失敗に終わった。。

 

結局、野球部側は部員の削減に応じるしかなかった。

 

鞘元「鳥羽崎、古橋。理事側から送られてきたファックスだよ。削減対象選手は伊藤、秋田、門倉、石井、嘉勢.....」

 

そこには、十分戦力候補となる選手も対象とされていた。

 

古橋「何やこれ。こんなん受け入れてええんか?」

 

古橋が怒りを表にするも、周りの選手は気にもかけなかった。

他人のことなど、もはや構っている暇は無い。逆らったら部自体がなくなってしまう可能性だってある。

周りに問い掛けても、誰も答えようとはしない。

 

そして、ついに痺れを切らし、古橋は立ち上がった。

 

古橋「理事のおっさんにクレーム付けにいったる。こいつら全員捨てることなんてさせへんで」

 

そんな古橋を呆れた表情で見つめる部員達。

嘲笑うもの、皮肉るもの、無反応なもの等、彼らにとって古橋の行動などどうでもよいものだった

 

しかし。そんな古橋を止める人物もいた。

 

鳥羽崎「止めろ。チームの和を乱す気か!」

鞘元「そうだよ。気の毒かもしれないけど・・・、これは・・・仕方ないんだよ・・・」

 

だが、古橋は止まらなかった。

そんな鳥羽崎や鞘元の言葉も耳に入らなかったのだろう・・・・。

 

 

 

 

鳥羽崎「・・・・・バカヤロー・・・・」

 

 

 

 

 

そして・・・・

 

 

 

 

校長「理事、本当に大丈夫かね・・・・」

 

城彩の校長室では、理事と校長が密談を行っている。

内容は、野球部の暴力事件の、今後の解決策についてである。。

理事と呼ばれた大柄の男は、テーブルの上に置かれた茶をすすりながらドスの利いた声で言い放つ。

 

理事「不穏分子・・・、いや、野球部発展の妨げになるような人材は、全て退部。それのどこに問題があるんです?最も効率的でかつ、簡単な対応でしょう」

校長「しかし、こんなことが外部に漏れたら、うちの学校の評判はガタ落ちですぞ」

理事「問題は無い、こいつらを野球部で飼い殺しているより他の部の戦力に当てた方が、部活の発展にも繋がる。それに退部リストに載っている選手は全て、練習への参加率が悪かったり、授業の成績も悪い出来損ない共だ。万一外部に漏れても、学業発展の為と言えば、何の問題にもならない。第一、顧問のいない部活が、成り立っていること事体が問題ではなないのか?」

 

理事の説明に校長は頷くしかなかった。

この理事は本部から派遣された、お偉いさんだから、逆らう術も無い。

それ以前に、校長も学校の発展にこしたことはないと半ば話しに乗便しているのだ。

 

校長「では・・・・」

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

古橋「失礼します。理事長いらっしゃいますか?」

 

校長「だ・・・誰だね君は。生徒がこんなところに入ってきてはいけないよ・・・」

 

 

なれない標準語で、若干の緊張が見られる古橋。

しかし、そんな古橋を校長は煙たがり、追い出そうとする。しかし、古橋は引き下がらない。

 

古橋「退部選手リストのファックスが届きました。その件に関してお話したいことがあるんです」

校長「り・・・理事!なんとかしたまえ・・・・」

 

校長は焦った様子で、理事の名前を出す。

そして、遂に大柄な男が重たい腰を上げて、古橋を手招きする。

 

理事「野球部の生徒か。まぁここにかけたまえ」

 

理事はいままで座っていたソファーと異なる椅子に座り、その向かいに古橋を勧める

校長は困った様子で、頭をかきむしりながら、黙って引き下がる。

 

古橋「失礼します。。」

 

古橋が、怒りを押し殺し、穏やかな表情で理事と向かい合う。

 

古橋「一体どういうことなんでしょうか?コレ・・・」

 

古橋は半ばなまりながら、標準語を使いこなし退部リストを差し出した。

すると、理事は不敵な笑みを浮かべながら、言葉を発した。

 

理事「これは。君たちの更なる向上の為の改革だ。野球は9人とそれをサポートするベンチ入りメンバーで成り立つスポーツだ。練習もでない、成績も悪い、ベンチにも入れないようなどうしようもない連中はお前らだって邪魔だとおもうだろう?」

 

あくまで冷静な理事の言葉に、古橋は静かに頷く。

しかし、その表情は先ほどまでとは打って変わり、怒りが明らかに顔に出ていた。

 

古橋「こ・・・コイツラは自分達なりに1年半、ここまで必死に頑張ってきたんです。それを、こんな強制的な形で退部させるなんて・・・」

 

しかし、あくまで理事は冷静にそして、残酷な表情を浮かべ応答する。

 

理事「では、昨年の不祥事はどう説明する?落ちこぼれ共が、頑張ってきた奴らを嫉み起こし、結局最後は何も残らなかった。二度とあのような不祥事を起こさないためにも、不穏分子は排除するべきだ、違うか?」

 

だが、そんな理事の問いかけに。ついに古橋の怒りが頂点に達した。

押し殺すことが出来ない溢れるほどの怒りに、古橋は目の前のテーブルをひっくり返した。

 

 

 

 

 

古橋「ふざけるんやないで・・・・」

 

理事「何だと?」

 

 

 

 

 

続く