第18話『ひとつの絆』

 

 

 







 

 

 

 

 

記憶が途絶えたーーーーーーー

 

 

 

ただ、確かなことは、自分が自我を失い暴れまわり。

体育の教師に取り押さえられていたという事。

 

そして、放り出され。特別会議室に連れ込まれたという現在の状況だけだ。

 

理事「さてと。君は自分のやった事の意味くらいは理解しているかね?」

 

理事の狂ったように意地の悪い言葉に。

古橋は全く反応を示さず、無愛想に振舞っている。

しかし、理事は次に古橋にある提案をした。

 

理事「さて、古橋君。一つ私に提案があるんだ。いいかね。」

 

先ほどとは打って変わって冷静な態度をとる理事に対し。

古橋も僅かばかりだが戸惑っている様子だ。

不気味だ。何を言い出すか解らない。。

そんな心境の古橋の周りを、重い空気が包み込む。。

 

理事「今回の事は水に流してやろう。しかし、今後は私が野球部の顧問を兼任する。今後一切私のやり方に異論を持たないで頂こう。」

古橋「ど・・・どういう意味や?」

理事「なぁに。私がこの野球部を名門に創り変えるだけだ。お前らはただ私に従っていればいい」

古橋「なっ!」

 

古橋はどうしても納得が出来なかった。

顧問のいないと言う弱みに付け込んで、野球部を自分の部にする上に。

自分が必要ないと思う人材は斬る。

 

まるで、かつてドイツが行った。独裁政治のようなものだ。

 

そんなものを許せいるはずがない。

 

古橋「その条件は飲めへん。」

理事「なんだと?」

古橋「アンタが野球部をどうしようと構わへん。せやさけ、部員の除籍だけは黙ってるわけにはいかんのや。ここまで頑張ってきて、除籍なんてあんまりやで」

理事「ほう。。」

 

理事が、組んでいた足をゆっくり解くと。

向かい合っていた机をドンッと強く叩きつける。

すると、先ほどまでの冷静な態度から一転。怒りの表情を現にする。

 

理事「除籍の取り止めか。いいだろう。私は見過ごしていたようだな、この野球部の最も大きな不穏分子をな・・・・。」

 

と、狂ったように笑いながら言うと。古橋の胸座を掴み言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

理事「退部候補の16人に代わって。お前が退部しろ。それが条件だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、古橋は野球部を退部した。

 

このことを知る人物は、ほとんどいない。

 

このことを口にして、噂になれば。理事の手によって動かされている野球部がどうなるかわかったものではないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

場面は、思い出のあの場所に戻る。

 

秋とはいえ、まだ残暑の残るこの頃だが、夜と言う事だけあって、涼しさすら感じられる。

満月の下、二人の間で、空白となっていた部分がようやく埋まり始めてきた。

 

鳥羽崎「・・・・・・」

 

古橋「間違っても人にいったらアカンで。漏れたらどないことになるかわかったもんやないからな」

鳥羽崎「古橋。だが、何故お前は他人の為にリスクをおかしたのだ?」

 

鳥羽崎が、古橋に一つの疑問をぶつけた。

 

何故、自分のデメリットになるようなことを。他人の為にできるのだろうか?

そんな甘ったれた良心だけでとった行動が、到底鳥羽崎には正しいと思えなかった。

 

 

古橋「俺は自分の損得だけで動いてるわけやない」

鳥羽崎「意味が無い。お前の夢もそこで断たれることになるんだぞ」

古橋「そのことは言うなや。ただな、俺は理事のいいなりにやっても無理や思うで」

鳥羽崎「だが、野球部にはOBの指導者、経験者が日替わりに指導に来たりする。それに、設備だって充実している。大人しく従って、爪を磨いていればよかったものの・・・、第二野球部だの、戦力にもならんクズ共と戯れて・・・・俺はお前の行動を理解することができん・・・」

古橋「あぁ。到底理解できんやな。リスクを犯すこともできんようや弱者にはな!」

鳥羽崎「な・・・なんだと!」

 

 

再び、お互いの周りを重い空気が包み込む。

視線と視線の間に火花が散る。

 

古橋「まぁええわ。一週間後の試合で証明しようや。どちらが正しい決断だったか・・・」

 

古橋が再び口を開くと、鳥羽崎も冷静さを取り戻し

フッと鼻で笑ったような態度をとる。

 

古橋「せや、一つ聞きとう事があんねん。」

鳥羽崎「・・・・・?」

 

古橋の質問に、鳥羽崎がピクと反応して、目線を合わせる。

古橋もそれを確認した上で、話を続ける。

 

古橋「何でお前は、俺らにチャンスを与えたんや。」

鳥羽崎「どういうことだ?」

古橋「お前は昔から、賢い奴や。自分の不利益になるようなことは一切せんかった。そんなお前がここに来てどないしてリスクを背負うんや?」

 

古橋の質問に、鳥羽崎が表情を少し崩す。

今まで鉄仮面といっても良いほどの、無表情を保ってきた男だったのだが。

その質問に対しては、表情を僅かではあるが変えたのである。

 

そして、今までとは違った様子で。口を開く・・・・。

 

 

 

 

鳥羽崎「俺と・・・小宮山太一は・・・・」

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴー

 

 

 

 

 

その瞬間、なんともタイミング悪く上空をジェット機が通過した。。

 

 

 

 

 

鳥羽崎「・・・・・・・・だ」

 

古橋「スマン、重要な場面でイマイチリピートするのは気が引けると思うが、もう一度頼む」

 

鳥羽崎「・・・・・わかった」

 

古橋「ホンマに空気が読めん飛行機やな。運転手B型やな。」

 

古橋のわけのわからぬ発言に、あたりが一瞬静まり返った。

そして、気を取り直して鳥羽崎が口を開きかけたその瞬間。

 

 

「ふるはしさ〜ん、ここにいるんでしょ?」

「古橋せんぱ〜い。野上で〜す。出て来てください」

 

 

聞き覚えのある声が、あたりに響き渡る。

恐らく小宮山や野上達が、誰かしらからここを聞きつけてやってきたのだろう・・・・

鳥羽崎はそんな状況を把握すると、古橋に背を向けて去っていく。

 

鳥羽崎「試合では、容赦せん。全力で叩きのめす。覚悟していろ」

古橋「ヘッ、お前らこそ、なめてると知らんで・・・」

 

鳥羽崎は、フッと再び鼻で笑うと。夜闇の中に去って行く。

鳥羽崎の姿が見えなくなると同時に、数人の人間が、草陰から古橋の下へ歩み寄る。

 

小宮山「探したぜ、古橋さん」

古橋「お・・・お前ら、なんでこんな時間に・・・・」

 

そこには、小宮山だけではなく、野上、西郷、吉見、古畑茜、市原楓。

そして古橋の妹の時雨の姿もあった。

 

古橋「なんで時雨までおんねん!」

吉見「この場所を時雨ちゃんに聞いたんだよ、兄貴っ!」

古橋「ど・・どういうこっちゃ?まったく状況が読めへん」

古橋時「バカな兄貴でゴメンネ。今わかり易く説明してあげるから」

西郷「・・・・・・・」

 

時雨は、兄の浩太郎にいままでのいきさつを説明した。

すると理解した古橋は、小宮山達に全ての真相を明かした。

 

古橋「嘉勢と門倉は、たまたま理事と俺の会話を聞いておった。せやさかい、3人でよく河原で野球をやってたんや。」

吉見「ここから先はだいたいわかるから・・・・」

小宮山「さっぱりわからん・・・・」

吉見「そこから発展して人が集まって第二野球部が出来た」

小宮山「凄いなお前。今の話でそんなことまでわかったのかよ〜」

西郷「・・・・・・」

 

全ての真相を聞かされた後に、学校の取り組みに対し恐怖心と疑問を抱き。

なんともいえない複雑な心境となった彼らだったが。

小宮山はそんな彼らの不安を吹き飛ばすようなナイスな天然振りを発揮する。

 

古畑「じゃ・・・じゃあ。古橋先輩は、9人揃うようになってから、理事の言いなりになってる野球部を倒して、新しい体制をつくりだそう・・・って事・・・ですよね。。」

古橋「簡単に言えばそうや。」

吉見「でもさぁ。それでうちが勝つと在籍部員は自動的に除籍になるんじゃない?」

 

古畑が纏めて、吉見が疑問をぶつける。

そう、古橋の悩みの種はまさにそれだったのだ。

 

野球部が廃部になった場合、在籍部員が一気に除籍される。

除籍の場合、推薦、履歴書はもちろん、秋の大会にも転部規則で出場できない。

結局、古橋自身が彼らの夢を潰すことになるのだ・・・・。

 

古橋はそのことも、彼らに話した。

 

市原「それでずっと落ち込んでたんですね」

古橋「あぁ。だけどもう決めたわ。遠慮するこっちゃない。次の試合は暴れまわったろう!」

吉見「いいのか?」

古橋「あぁ。俺かて人に夢を譲るだけの某人やない!」

野上「とにかく。古橋さんが元気になってよかったです!」

西郷「そうだな」

 

 

とにかく、全ての真相が明らかになり、お互いに更に打ち解けあった小宮山達と古橋。

第二野球部存続を賭け、過去を清算し。次の試合に全てをかけることを誓った。

 

そして・・・・チームが纏まるまで。あと少し。。

 

 

だが、鳥羽崎が言いかけた言葉・・・・・。

古橋曰くB型のジェット機に掻き消された、重要な言葉・・・・。

 

「俺と・・・小宮山太一は・・・」

 

一体・・・鳥羽崎と小宮山は・・・・・・。。

 

 

 

 

 

 

 

続く