第19話『造反者達ともう一つの記憶』















 

 

 

 

 

 

 

青々とした大空の下、城彩第二野球部の面々はいつもにも増して練習に力を入れる。

大切な試合、存続を賭けた野球部との試合が3日後に迫っているから。

勝てる可能性など、ほぼゼロに等しい。

しかし、彼らは、自らの手で未来を切り開くために、今やれることを必死にやる。

 

グラウンドには、いつもの覇気に加え、緊張感すら漂ってきた。

 

 

カーン

 

 

浅間「おー、良く飛んだわ・・・」

 

打撃練習中、浅間が放った打球はセンターへ。

 

中浜「おいおい、狙いすぎじゃないのか?」

 

打撃投手を務めている中浜が、半ば呆れたように打球を見送る。

外野に立たされていた野上が、その打球を拾いに走る。

その光景を見ていた打順待ちの門倉が痺れを切らしたかのように言う

 

門倉「おい、浅間。鳥羽崎の球は、そんな打撃じゃ打てないぞ」

浅間「なんだよ、当たれば飛ぶかもしれんぞ」

門倉「いや、野球部の守備力を考えた上で、お前は確実に安打を狙う打撃の方が良い」

浅間「はぁ?なんだそれ、つまんねーの」

 

浅間は渋々、バットの握りを余し、センター前に打球を運ぶ。

それを見て門倉も、二三度頷き、場を後にする。

 

 

一方、小宮山は経験の浅さから指摘される守備の粗さを徹底的に武藤に指導されていた。

華麗ではあるが、未だに動きがどことなくぎこちない。

要は確実性にかける守備力なのだ。

 

武藤「お前は、本能的に打球を取って一塁に投げている。だけどこれからは殆どの打球は正面に回って取ってもらう」

小宮山「正面?何で?」

 

武藤の熱心の指導の意図を全く掴むことの出来ない小宮山。

流石の武藤もコレにはずっこけた。

 

武藤「いいか?横で取ると、もしバウンドが不規則だったり、捕球を誤ったりしたときどうなる?」

小宮山「後ろに転がっていきます」

武藤「正面だったらどうなる?」

小宮山「身体にぶつかります」

武藤「どういことだかわかるな・・・・」

小宮山「いいえ、全然」

 

コレには再び武藤もずっこけた。

コイツは運動神経ばかり長けていて、脳みそは本当にあるのだろうか・・・。

 

武藤「あのな、身体に当たれば、前に落ちる。そのあとの処理をしっかりすれば、最低アウトはひとつとれるだろ」

小宮山「そっか、横だと。抜けてどんどん先の塁にいかれちゃいますもんね」

武藤「そ・・・そういうことだ・・・わかったら守備につけ、俺が打ってやる」

 

説明に思いがけない時間をかけてしまった武藤だが。

小宮山はココからが早い。

僅か30分で、確実性も送球技術も確実にアップしている。

 

武藤「こ・・・こいつ、できるな・・・・」

 

 

 

 

そして、バッテリー組は、最後の調整に入っていた。

 

 

ズバーン

 

 

吉見「う〜ん、コースがちょっと甘い・・・かな」

古橋「少しやない、狙ったコースから相当内にきおった、もう一球や」

吉見「おっけー」

 

エースの古橋と正捕手の座を掴んだ吉見は、最後の投球チェックを入念に行う。

最後の球が見事に決まると、吉見は古橋の下に歩み寄った。

 

吉見「速球はノビてないです、変化球もフォーク以外はあんまし頼りになりそうにないし、その頼みの綱のフォークも思ったようにコントロールできてない、あの野球部を相手にするには、相当厳しいと思う」

古橋「あぁ、わかっとる。せやけど俺の力はコレで限界や」

吉見「あと3日。徹底的に打たせて取る配球で投げる。それだけです」

古橋「西郷の方はどないしとる?」

吉見「速球以外、通用する球がないから、門さんもコントロール悪いし・・・」

古橋「あくまで完投・・・・ってことやな」

吉見「そうだね・・・・」

 

 

そうこうしている内に、陽は沈み、ボールが見えなくなってしまう。

ギリギリまで各自練習に励んだ彼等だったが、とうとうボールを確認できなくなり終了した。

 

 

小宮山「あー、疲れた。武藤さん鬼だもん」

野上「こっちは、中浜先輩に投げてもらって、結構良い感じだよ」

 

第二野球部の雰囲気は今絶頂に達している。

内部事情でいつもゴタゴタしている野球部に比べたら、格段に良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな第二野球部を快く思わない人間も出てきた。

 

今日の練習に参加していない、嘉勢をはじめとする真上と畑中の3人だ。

彼等三人は、野球部との存続を賭けた試合に対し不信感を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

真上「嘉勢先輩?本当にいいんですか〜?」

 

教室の隅で畑中を含む数人と戯れている嘉勢を真上が訪問する。

嘉勢が仲間達に合図を送って、真上の下に単独でやってくる。

 

嘉勢「俺は一度、野球部に捨てられてんだ。だから、遊びで野球をしたかっただけなのに、こんな面倒なことにしやがって。ってな訳で今回は俺らはパスする」

真上「で・・・でも古橋先輩は・・・・」

嘉勢「アイツはアイツなりに因縁もってるんだろけどよ。第二野球部はアイツの私物じゃねぇんだ、俺はそんなんゴメンだぜ」

真上「・・・・ぼ・・・僕はどうすれば・・・・・」

嘉勢「いいよ、俺に気を使うことなんて無いさ。」

 

 

 

 

 

 

僅かに生まれた、第二野球部の亀裂。

いくら彼らの雰囲気が良くても、チームが纏まらなければ意味が無い。。

 

 

門倉「浅間、嘉勢達のことなんかしらない?」

浅間「いや。連絡してしてみるけど・・・」

古橋「どないしたんやろ、まさかあのことを引きずってるんやないやいやろうな・・・・」

門倉「その可能性もあるな・・・」

浅間「おいおい、何の話だ?」

古橋「あ・・・あぁ、それは・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

一方、そんな事すら気にしていない1年4人組は

少し寄り道をして、商店街の方から帰ろうと言う小宮山の提案の下、別ルートで帰る事に。

 

野上「太一。大丈夫なの?このへん俺あんまししらないよ?」

小宮山「大丈夫、気分転換よ。気分転換・・・・。」

 

いつもとは違い、あたりは明るい。

街は賑わい、数秒のうちに何人もの人とも擦れ違う。

コンビニ、八百屋、美容院など。様々な店が建ち並ぶこの商店街が

練習帰りの彼等を誘惑する。

 

吉見「おい、あそこの本屋寄ってこうぜ!」

野上「駄目だよ、もう夜なんだから」

吉見「固ぇこと言うなよ、行こうぜ」

小宮山「西郷だったら18禁も顔パスだしな」

西郷「オイ、どういう意味だ・・・」

 

 

彼らが甘い誘惑に誘われ、本屋に立ち入ろうとしたその時だった。

 

 

 

 

ウーーーー。ウーーーーー。

 

 

サイレンを鳴らし、赤く、大きく、不恰好な塊が道路を猛スピードで横断する。

 

 

 

 

消防車である。。。

 

 

 

 

「城彩18番地、城彩18番地で火災が発生」

 

 

野上「す・・・すぐ近くだ・・・」

西郷「行くぞ!!」

 

野上と、西郷が消防車を追い、走り出すと。

小宮山と吉見もやれやれと言わんばかりの表情で、後を追う。

 

 

 

 

「家の中に男と幼児が取り残されている、何とかしてくれ!」

「あの人が・・・あの人が死んじゃうよぅ・・・」

 

野次馬に来ている人たちは、大勢いた。

野次馬と言うよりは、近所の人たちらしく。

バケツで水をかけたり、土を投げ込んだり。

目の前に広がる無残な光景と、残酷な現実に実に虚しい抵抗を繰り返している。

 

消防隊が駆けつけ、消火活動が始まる。

住民も、消防隊も一丸となって、消火活動に当たって全力を注いでいる。

 

 

吉見「な・・・なんてこった・・・・」

西郷「どうして、こんなことになったんだ・・・・」

 

人が取り残されているのを確認した二人は、消える気配を見せない炎を確認して唖然として台詞を棒読みしたかのように固まりながらそう言った。

 

だが、そんな光景を前に異常反応を示した人物がいた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小宮山「う・・・うわあああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

付近の住民の視線が、一斉に小宮山に移った。

 

野上「た・・・太一、どうしたんだよ・・・恥かしいだろ・・・・って・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタッ

 

 

 

 

 

 

 

小宮山はその場で、まるで死んだように倒れた。

 

 

その表情はいつもの明るい表情からは考えられないほど引き攣っており。

目の前の巨大な炎に、心が焼き尽くされたかのように。。

そして、彼はしばらく目を覚ますことはなかった。。

 

 

 

野上「た・・・・太一・・・・」

 

 

 

 

 

一体彼の身に・・・・何が起こったんだろう・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

続く