第20話『Lost...to back 失ったモノ、取り戻すべきモノ』

 

 

 

 

 

 




















 

 

門倉「おい、嘉勢!」

嘉勢「あぁ、門倉か・・・」

 

 

野球部主将格の門倉が、焦ったような表情を浮かべながら、嘉勢の家を訪問する。

この大切な時期に、理由も無く練習をサボった嘉勢の様子を見にきたのだ。

 

嘉勢「どうした?こんな遅くに。」

門倉「どうしたもこうしたもない、試合は3日後だぞ、何で練習に来ない!」

 

血相を変え、高圧的な門倉に対し

嘉勢はいつものように顔色一つ変えずに冷静に対応した。

 

そして、冷たく言い放つ。。

 

 

嘉勢「俺は・・・試合にでない。」

 

門倉「どうしてだ?」

 

 

嘉勢の言葉に、門倉は表情を歪ませながら、出切るだけ冷静に言った。

すると、嘉勢はこう言い放った

 

嘉勢「もう十分だろ、こうして野球が出来たんだから・・・」

門倉「何が言いたいんだ?」

嘉勢「俺は・・・・野球が続けられれば良かった。あぁ、最初。俺とお前と古橋の3人でやってた頃が一番良かったさ。」

 

嘉勢はそう言うと、珍しく冷静さを欠いたような口調で続ける。

僅かな口調の変化だが、古くからの付き合いの門倉はそれを見逃さなかった

 

嘉勢「あの事件以来、野球部に戻る気がなくなった俺と、お前。そして古橋は3人で放課後毎日河原でキャッチボールをしていたよな・・・」

門倉「あぁ・・・・」

嘉勢「それに便乗して、庄治や中浜や浅間達も加わって、いつしか俺たちは『第二野球部』なんていわれはじめたっけな・・・」

門倉「そうだったな・・・・・」

 

黙って話を聞く門倉に、珍しく口数の多い嘉勢。

そして、ついに嘉勢が今まで押し殺してきた感情を爆発させる。

 

嘉勢「それが・・・何でこんなんなっちまったんだ!俺は野球が出来ればなんでもよかった。それを調子に乗って、話を大きくしていったばっかりに、こんなになっちまったんだ・・・・」

 

嘉勢は玄関の壁を思いっきり拳で殴りつける。

今まで抑えていた感情が一気に高まり、爆発したかのような・・・・。

 

嘉勢「古橋の気持ちがわからんでもない・・・でも、野球部と試合をしてどうする、勝てるわけが無い・・・仮に勝ったとしても、それが何になるってんだ!」

 

冷静さを欠いた嘉勢をなだめるように、門倉は嘉勢の右肩をポンと叩き。

玄関に置いてあった軟球を手にとって、何度か手の上でそれを躍らせて見せた。

そして、精一杯自分の感情を抑えて、僅かに声を震わせて言った。

 

門倉「お前の気持ちはわかる、でも・・・俺が言いたいのは・・・・」

 

 

 

 

ブーブー

 

 

 

 

門倉の話し始めた瞬間に、門倉の携帯のバイブ音が鳴る。

門倉は話を手短に終わらせる自信が無かった為、一度中断の仕草を見せ、電話に出る。

 

門倉「もしもし、誰だ?」

吉見「壮真ですっ!大変だ!太一が倒れた。どうしよう!!」

門倉「小宮山が?何処だ、今行く!」

 

門倉は電話を切り、荷物を背負い直し、嘉勢の家を飛び出す。

 

嘉勢「どうしたんだ!?」

門倉「話は後だ、ついて来い・・・」

 

 

 

 

 

 

 

一方火災現場。

 

 

野上「ど・・・どうしよう、救急車呼ぶ?」

吉見「いや、今門倉さん達に電話して来てもらうことにした、大体倒れ方的にそんなに大げさって訳じゃなかったし、炎を見て、ショックで気絶したんだろ。」

 

火災現場では、いきなり奇声を上げて倒れた小宮山を残りの3人が介護する。

周りの大人は、消火活動でこちらにはまだ気付いていない。

西郷は気絶した小宮山を担いで、路地の隙間に運び込む。

 

吉見「とりあえず、先輩達が来たら、家に送り届けるか」

野上「駄目だよ、太一のお父さん、遅くまで働いてるから・・・」

吉見「親がいないのかよ・・・どうしようか・・・・」

 

三人は頭を抱えて悩み込む。

ここで大人に知れたりすれば、第二野球部の存続の可能性が更に薄くなる。

 

嘉勢「野上、壮真、西郷。こっちだ・・・・」

 

路地裏から、静かで今日初めて聞く声が響き渡る。

 

壮真「か・・・嘉勢さん。どうしてここに?」

嘉勢「話は後だ、ついて来い・・・・」

 

3人は突如現れた嘉勢に、黙ってついて行く。

すると、更に入り組んだ道の先に門倉が、古橋が、武藤が道標として立っていた。

そして最後、突き当たった古びたアパートには浅間が立っていた。

 

浅間「説明は後は、入れ・・・・」

 

小宮山の自宅を基準とするならば、そこはあまりにも荒れ果てていて、不気味な感じがした。

人が住んでいる気配も無く、誇りをかぶっていて、階段の手すりはさびきっている。

どうやら、空家・・・いや。廃墟とすら言える環境だろう。。

 

吉見「ちょ・・・・、翔君。何なのここ・・・・」

浅間「黙って付いて来い・・・・」

 

後ろから三年の面々と、小宮山を連れた1年の三人をぴったり付いて来る。

暗闇の中の階段を下り、さらに歩くと、そこには一際目立つほど磨かれているドアがあった。

浅間はドアのブを掴むと、それを思いっきり横に引っ張った。

 

すると

 

 

ガラガラガラガラガラ

 

 

野上「・・・・・・!!」

浅間「入れ・・・」

古橋「ひゅー、なんちゅーとこやねん」

 

浅間は壁のスイッチをいくつか連打すると、あたり一面が明るくなった。

そこには、廃墟とは思えない程、綺麗に整備され、カーペットも敷かれていた。

 

吉見「ねぇ、ここ・・・・何なの?翔君・・・」

浅間「ここは・・・・俺が世話になった先輩達のアジトだった場所だ・・・・」

野上「アジト?」

浅間「あぁ・・・・、俺が・・・・・」

古橋「話さんでええ、浅間・・・・」

 

浅間が何やら話そうとしていた所、古橋が制した。

吉見は続けてくれと、色目を利かせてみたが、浅間の表情が暗いのに気付いて我に返る。

 

西郷「とりあえず、まずはこいつだ・・・」

 

西郷が背中に担いでいた小宮山をそっとカーペットの上におろし、寝かせた。

枕と呼べるものは無かったため、浅間はカーペットを巻いて枕の代わりにした。

 

小宮山の周りに、1年の3人と、古橋、門倉、嘉勢、武藤、浅間の5人。

計8人が集まる。

 

武藤「当然だろうが、これは気絶だな・・・」

 

皆が、普段目立たぬ武藤の久々の台詞が拝めると注目した矢先の発言だっただけに。

あまりに拍子抜けすぎて若干スッコケ気味な雰囲気を漂わせる。

 

しかし、ここで門倉が気を取り直し、再度小宮山の脈と額に触れ、状態を確かめる。

 

門倉「特に何も無いな、熱もなさそうだ・・・」

 

門倉の言葉に、一同が安堵の表情を浮かべる。

しかし、それもつかの間、別の問題点が浮上する。

 

嘉勢「気絶した時の状況はどんなんだった?」

野上「えっと、火事が起きてて、それで中に人がいて・・・それを見たら太一がいきなり・・・・」

武藤「妙だな・・・・」

西郷「そうですね・・・、何で急に・・・・」

 

だが、今はそんなことを気にしている暇は無かった。

一向に意識を取り戻さない小宮山を見て、一同に再び不安が込み上げて来た。

しかし・・・ここで外部に漏れたら、今度こそ第二野球部の存在が危うくなる・・・。

 

古橋「とりあえず、汗かいとるやろ。脱がしたれ・・・」

 

古橋の指令で、野上がそっと小宮山の身体を持ち上げて、練習着を脱がせる。

浅間は、部屋を漁り、代わりになるようなものを探す。

 

 

 

 

 

 

と・・・その時だった・・・・。

 

 

 

 

 

 

古橋「何やコレ・・・」

 

 

 

古橋は目を疑った・・・。

 

小宮山の腹部に、僅かながらくっきりと線のような物が浮き出ている。

そして、その範囲だけ、僅かに肌の性質が違った。

彼の小麦色の皮膚と比べると、明らかにそこからは白く、まるで全く別物のもののようだ。

 

 

 

 

 

門倉「火傷か・・・それもかなりの広範囲だ・・・・」

古橋「にしては妙や、火傷っちゅーもんは、跡がもっと痛々しく残るんじゃないのか?」

門倉「あぁ、ここまで綺麗に再生しているのは始めてみた・・・」

古橋「着替えの時とか気付かんわけや、よーく見ぃへんと、わからんわな・・・こりゃ・・・」

 

一同はそれぞれ驚いたような表情を浮かべる。

一瞬遅れて浅間が小宮山の腹部に毛布のような物をかける・・・。

 

嘉勢はいつものように冷静な表情で、あっさり言い放つ

もっとも重要な発言とも思える、決定的なこの言葉を・・・。

 

 

嘉勢「こんな広範囲の火傷、過去によっぽど酷い目にあったんだな・・・」

 

 

一同「そ・・・それだ・・・」

 

 

一同は、声を揃えて言った。もちろん打ち合わせなどは無しだ。

その後はしばらく辺りがざわついた、皆が声が揃った余韻に浸っているものもいた。

しかし、浅間が部屋の管理人として、静かにしろと注意すると、すっかり皆口を閉じた。

 

西郷「お・・おい、賢時。お前、なんか心あたりないか?」

野上「な・・・ないよ・・・、そんな小さな頃から知り合ったわけじゃないもん・・」

吉見「じゃ・・・じゃあ太一が起きたら直接・・・」

 

古橋「やめときや!」

 

吉見「・・・・っ!!」

 

突然、古橋が声を荒げて吉見を制す。

流石の吉見も少し驚いたようだが、すぐに反抗的な目で古橋を見返した。

 

吉見「で・・・でもさぁ、俺たちチームメイトなんだし・・・・」

 

吉見の反論に、古橋は怒りを蜜を含み、冷静に切り替えした・・・・。

 

古橋「人は誰しも、触れられたく無い事はあるんや・・・、違うか?壮真?」

吉見「・・・・・・」

 

古橋の言葉に、吉見の表情が何かを胸に刺されたかのように引き攣った顔つきに変化する

門倉は古橋に注意を呼びかけ、古橋もスマンと軽く吉見に合図を送った。

だが、これも触れられたくない過去を持つ古橋だからこそ、わかることだ・・・・。

 

そして・・・・心に傷を持つ人間は古橋だけではない。

 

彼も・・・・吉見も・・・・、なにやら事情があるようだ・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして結局、小宮山の火傷の傷に関しては、何もわからず終いとなった。

 

 

 

 

 

 

 

一同はこの時・・・・まだ・・・・何も知らなかったから・・・・・。

 

 

 

 

 

悪い空気が漂う・・・・・

そんな中、武藤が名誉挽回を狙って、気まずい空気の打破に踏み切った・・・・。

 

武藤「とにかく、小宮山が起きた時に暴れないように抑えておけ・・」

吉見「あ・・・・うん・・・・」

 

武藤が機転を利かせて吉見に呼びかける。

今回はしっかり仕事を果たすことが出来たようだ・・・・・。

 

 

そしてこの武藤の何気に無い一言から。もうひとつの作戦が開始された

 

 

 

吉見が気絶した小宮山に跨り、その上に体重をかけて身動きを取れないようにする。

武藤と古橋もそれぞれ手足の近くに寄り添って、いつ暴れても抑えられるように待機している。

野上は小宮山の衣類を一つに纏める、浅間は西郷と協力して、部屋の整理を始めた。

 

古橋「(あとは頼むぜ・・・門倉・・・・)」

 

古橋が、門倉に合図を送り、門倉も頷く。

 

そして・・・門倉が、もう一つの問題を解決する為に・・・・立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

門倉「嘉勢・・・・ちょっと来い・・・・」

 

 

 

 

嘉勢「・・・・・・・」

 

 

 

 

 

仲間の戦意を・・・・・取り戻すために・・・・・。

 

 

 

 

 

 

続く