第22話『失われた過去・・・そして、残された48時間・・・』
体が熱い・・・・
先ほどまで、肌寒さすら感じだ気がするのに・・・・
目に入る物は、真っ赤に燃えさかる暗黒の炎だけ・・・・
何で僕は・・・こんな目に遭わなければいけないの? 熱いよ・・・あついよ・・・・あつい・・・・・
意識が遠のく・・・、目の前に広がる炎が膨張し、歪みんだと思えば。
その瞳は光すら映さなくなる・・・。
微かに感じるのは、自分を抱きしめる・・・何者かの温もり・・・・・。
「生きろ・・・お前は生き残って・・・・奴らを・・・・・・・」
小宮山「はっ!!」
吉見「うわっ!!」
気付けば、そこは質素な電球と、古びた床に、素朴なカーペット。 どこかの部屋のような場所だった。 ここは何処だ・・・目の前の光景の変化、幻想の世界から現実へ。 落ち着かない気分を晴らすために、起き上がろうとするが、体が重い・・・・。
小宮山「ああっ!!」 吉見「おわっ・・・」
冷静さを欠き、動き出そうとする小宮山。 吉見は小宮山の身体にしがみ付いて、必死に宥める。 古橋と武藤も、小宮山の手足を抑える。
そして、しばらくすると、小宮山がいつもの冷静さを取り戻す。
小宮山「はぁ・・・一体・・・どうしたんだ・・・・俺は・・・・」
いつもとは少し違う。 明るさが失せ、妙なほどに物静かなのである。。
普段の小宮山を丘上に咲く向日葵と表現するならば、今の状態はまるで沼地にひっそりと咲くドクダミと言ったところか・・・・。
吉見「たい・・・ち・・・」 古橋「・・・・・・」 武藤「・・・・・・」
そんな様子の小宮山を前に、一同はすっかり黙り込んでしまった。
いつもみせる彼の表情と違い・・・今の彼の表情はどことなく寂しい。 いや、寂しいと言うよりは哀れだ、水をあげることを止めてしまった花のように・・・ 大切な何かを失い、悲しみに明け暮れる幼き少年のように・・・・。
普段綺麗に整っている髪も、時間と共に全て前に落ちてしまっている。
悲しい・・・、こんな彼を見て・・・・彼らも何か、不思議な症状に陥ったのだろう。。
小宮山「ここは・・・・どこ・・・・?」 武藤「浅間の仲間だった奴らの昔の溜まり場だ・・・」 小宮山「む・・・武藤さん。け・・賢時や壮真や西郷は?」 吉見「バーカ、ここにいるぜ。」
どことなくいつもとは別人のような小宮山に、吉見はいつもの通り明るく接してみる。 しかし、いつものような覇気は感じられず、気まずい空気が辺りを包んだ・・・・。
気まずい雰囲気に嫌気が差したのか、面倒見の良い古橋が口を開く
古橋「こ・・・小宮山?お・・お前大丈夫か?なんか表情暗いんとちゃうか・・・・」 小宮山「あ・・・・あぁ、うん・・・・」 武藤「別に何があったかは聞かん。ただ体調が良くないなら、今日はゆっくり帰って休め」
武藤も自分なりに気を使って、小宮山に言葉をかける。 そこに荷物を纏めた野上が、浅間が、西郷が意識を取り戻した小宮山に気付く。 そして・・・その小宮山の異変に、皆が気付いた・・・・。浅間すらも・・・・。
古橋「今日はもう遅い。ここで解散や。ばれたらアカンしな。野上は念の為、小宮山を家までおくってやってくれへんか?」 野上「あ・・・・わかりました。。」
皆、古橋の一言で、部屋を去った。 団体だと見つかりやすいので、まずは1年の4人から、続いて3年が廃墟を出た。 商店街に戻ると、先ほどの火災の話題で持ちきりだった。 時間を確認すると、もう8時を回っていた。。
西郷「にしても大丈夫か?かなり長い時間意識を失ってたみたいだが・・・・」 小宮山「あー、うん。多分な・・・・」 西郷「そうか・・・」
先ほどから口数の少ない小宮山に、3人は違和感を感じざる得なかった。 普通にするのが難しい、こんなことを感じたことは、4人でいる時はほとんどなかったと言うのに。
しかし、そんな中、異様な空気を打破する一言が、吉見から飛び出した。
吉見「太一。お前今日俺んちくるか?」 小宮山「え?」
小宮山が、いつもと違い、感情込める事無く聞き返すと、吉見は続ける・・。
吉見「あ・・・いや。お前んとこ父子家庭だろ?親も夜遅くまで帰ってこないって聞いたからさ、こんな日くらいは誰かと一緒にいたほうがいいんじゃないか?」
小宮山が死んだ瞳を瞬かせ、首を横に振るが、野上が後押しする。
野上「そうだよ、壮真んとこ行ってきなよ、気分も晴れるよきっと」 小宮山「行きたいけど・・・いいのか?」 吉見「大丈夫だ、俺んところは母子家庭で、いま親は親戚んとこの用事で出かけてる。誰もいねぇから、こいよ。なっ」
吉見が小宮山の肩をポンッと叩き、野上も背中を軽く叩く。 すると吉見の目線は野上に向き、人差し指で野上を指して言った。
吉見「賢時はどうする?」 野上「いや、俺は親が心配するから・・・・」 吉見「そっか・・・・で、太一はどうすんだ?」
吉見が、いつも以上に明るく振舞って、小宮山の肩を掴んでゆさゆさと揺らす。
小宮山「ん・・・じゃあ、そうさせてもらうか・・・・」
小宮山が、流れに任せるままにそう言うと、吉見はニカッと微笑んだ
野上や吉見の振る舞いで、少しずつ明るい表情を取り戻してきた小宮山。 野上とも別れて、二人は吉見の家と思われるアパートの前まで来ることができた。
多少古びた感もあったが、人が暮らすのに影響がある訳でもない。 外側の階段から、二回に上がり、一番手前の部屋の扉を鍵で開け、勢い良く荷物を放り込む。
吉見「おい、上がれよ。誰もいないから心配すんな」 小宮山「あ・・・あぁ・・・」
部屋に上がると、そこは広いとは言いがたいが、きっきり綺麗に片付いていた。 押し入れには布団がきっちり閉ってあり、棚も部屋の隅に置かれている箱も、殆どの物が規則に従って置かれている。
小宮山「おいおい、意外と几帳面だな」 吉見「ああ、母さんがね。ここんとこずっといないけど、たまに帰ってくると掃除してくれんだ」 小宮山「へぇ・・・」
小宮山は、自分の家と全く正反対な立場に置かれている家庭を見て、疑問符を浮かべた。 ここの家の、父は。。いや、自分の母は、一体いま何処にいるんだろうと。 はっきりと記憶されていない苦い記憶と、現在置かれている状況が重なり合わない。
父は・・・父さんは・・・死んだはずだ。
だが、今は俺は父さんに育てられてる・・・・。
2人の父親と、浮かばない母親像。そして・・・真逆の家庭に育つ吉見。
まぁ、それを今考えても答えは出ない・・・。 小宮山も自分自身で、周りに気を使わせていたことを察し始めたか、難しい事を考えるのもいつしか。止めていた・・・・。
吉見「悪い、俺風呂入るわ・・・、やっぱ練習したあとそのままでいるのはツライや」 小宮山「ああ、俺、どうすればいい?」 吉見「・・・そっか。。とりあえずあとでシャワー使うか」 小宮山「うん、それでいいや。それまで適当に食ってるから」 吉見「ああ」
小宮山は、自前のコンビニ弁当を出して、それを食べ始める。 空腹も無理はない、やはり昼食後何も食べていないのだから・・・。 空腹を満たしたい感情からか、弁当のフタを力づくで開けようとする。 すると、弁当のフタと共に、弁当の中身が僅かにテーブルの上にこぼれる。
小宮山「あっちゃー」
綺麗に片付けられたテーブルの上に、食べ物のカスが散らばる。 さすがの小宮山もこれには焦りを覚えた。
小宮山「なんとかしなきゃな・・・」
小宮山はとにかく布巾になる物を求めて、台所をひたすら探した。。
しかし、そこで・・・ある一枚の写真が目に飛び込んできた・・・・。
小宮山「全日本・・・リトルリーグ・・・関西大会・・・出場記念・・・・」
そこには、小学生の頃の吉見と。もう一人吉見より遥かに大きく、頑丈な体格をした選手が笑顔で映っていた。 それが西郷ではない事は、見ればわかる。
小宮山「撮影は・・・200×・・・9月・・・2年前・・・・か・・・」
しかし、その写真を現実化させると、二つの疑問点が生じる。
ひとつは‘関西大会‘だと言う事。ここは関東地方。関西大会と言う事は、少なくとも関東のチームに所属していると言う事は無い。。 そしてもう一つは2年前。何故2年前にリトルで活躍するような選手が、関東(こっち)にきて軟式で遊んでいいるのかと言う事。
それは、頭の回転が特別遅い小宮山にもわかることだ。。 単純に家庭の都合だと考えても、リトルを経験した選手が軟式に戻るなんて言う事はほとんどないと言う話を、かつて野上から聞いたことがある。
小宮山「リトルだった奴が・・・城彩の第二野球部・・・どういうことだ?」
ガチャ
吉見「おーい、太一。どこいった?」 小宮山「あ・・・やべっ!」
吉見が、下半身にバスタオルを撒いた姿で、風呂場から出てくる。 その瞬間、小宮山は現実に戻り、再び布巾になる物を探し始めた。
吉見「おいっ、何だこれ。弁当こぼすなよ!」 小宮山「あ・・・悪ぃ。弁当が勝手に・・・」 吉見「ん・・な訳ないだろ!」
結局、吉見がその後処理をした。
小宮山はこの夜、吉見と自然に接するうちに、元の明るさが戻っていた。 時計の針が10時を回った頃に、彼らは既に眠りについていた。 明日も朝早くから練習がある、そして何より明日と土曜日を挟んで運命の試合だ。。
この日はお互い・・・。 直接触れる事の無いお互いの過去を脳裏に浮かべて、一つの屋根の下で眠りについた。。
一方、その時理事から開放された鳥羽崎と鞘元含む野球部の部員は。 解散後に鳥羽崎の自宅にて緊急ミーティングを開いていた。
理事の言葉を部員全員に伝え、明後日に迫る試合の戦略を練る。 野球部の彼らにとっても、絶対に負けることが許されない試合だから・・・。
鳥羽崎「理事は、もし俺たちが負けたら、何をするかわかったもんじゃない。俺たちが思っている以上にあいつは狂ってる」
鳥羽崎はいつもとは打って変わり、感情的な表情を浮かべて語りかける。 それもそうだ。
鳥羽崎「奴らには気の毒だが、勝ちに行くしかない・・・、特にお前ら二人には、働いてもらうことになる・・・。」
そう言った鳥羽崎の目線の先に大柄な男と、長身で華奢な男が立っている
大柄な男は野球部の3年で、4番でサードの堂上。 大会の本塁打記録や、ベストナインにも選ばれる実績もあるが。 気性の荒い性格で、何度も暴力事件を起こしかけている曲者だ。
長身の方は、2年生ながら5番を張る地区でも優秀な外野手、秋山圭一郎。 こちらも生意気な言動でチームの和を乱すことがある曲者だ。
堂上「なぁに、俺たちの手にかかれば、クズ共なんざぁ一瞬の命さ」 秋山「同等なのは、試合が始まった時だけってことを証明してやりますよ。」
鳥羽崎「あぁ、期待している。。」
その後もしばらくミーティングが続き、気付いた頃には時計の針は12時を指していた。
鳥羽崎「とにかく明後日は・・・負けるわけにはいかない・・・各自気を緩めるな、以上だ」
一同は、返事を返し、鳥羽崎の自宅をそれぞれ去っていった。 その瞬間、家の中の時計が、12時を過ぎた為か、小さな鐘の音色を流す。
運命の日まで・・・・・。
あと48時間・・・・・・・・・・。
続く |