第34話『never give up!最後まで...』



































5回裏、一死ランナー一、二塁

先攻 野球部4−1第二野球部 後攻











『3番、ピッチャー、古橋君』











古橋「・・・・・はぁ、はぁ」

門倉「辛そうだな・・・」

古橋「心配せんでええ・・・、まだまだ全然大丈夫や」











これまでとは打って変わり、疲れの色を濃く映し出している古橋。

ここまで約70球近くの全力投球で限界は近い



しかし、休んではいられない。

一度マウンドを下りれば、チームの主格。三番打者。

仲間の作ったこのチャンス、何とかモノにしなければならない・・・・。













古橋「浅間がせっかく、年に一度の大仕事をやってのけたんや。このまま終われるか・・・・」













だが、敵は容赦なく襲い掛かってきた



投球一球目、外から内へのカーブでストライク。

二球目はインローにクロスファイアー、しかし僅かに外れボール。

野球部バッテリーも、かなり慎重な組み立てで古橋を迎えている。





鞘元「(門倉はともかく、5番のチビに回すと厄介だ。3,4(番)で切るぞ・・・)」





古橋の頭の中でも、100%勝負してくると予想済みだ。

となれば、狙い球は確実に1球は投じてくるシュート。

小宮山の情報によれば、自分の知ってる彼のシュートには程遠いほどキレは落ちているはず。





打てないはずはない・・・・いや、と言うより、狙う他無い・・・・。





























お互いの意地がぶつかり合って、次の投球で5球目。。

古橋がファールで粘り、カウントは2−2となった。。



このカウントは、彼らにとって勝負のカウント。



鳥羽崎は確実にシュートを投じてくるし、古橋も狙わなければならない一球。















鳥羽崎の投球間隔も空いてきた。球の球威も本質的に僅かに落ちている。。

そして何より、呼吸が荒い。。











古橋「(奴も疲れてる、勝負は・・・この一球!狙いはシュート、違ったらなかったらしゃーない、割り切って行くで!)」



















そして、古橋の思惑通り・・・勝負球はシュートが来た・・・・。







鳥羽崎の左腕から投じられた白球は、低めに制球されて、折れるように鋭く・・・





















古橋「曲がらへん!」



















鳥羽崎「何っ!!」

















カーン

















打球は反対方向へ、鋭く転がっていった。

丁度一塁線上に、勢い良くスピンのかかった打球が落下する。

一塁塁審のフェアの合図に、一塁ランナー浅間が三塁へ激走。



ライト秋山は、それを見て間に合わないことを悟ったのか、傲慢な送球を二塁手鎌戸に返す。

















一点返し、尚も一死ランナー。一、三塁。





打者はここで、頼れる4番打者門倉。

だが、野球部はこの門倉を打ち取る術を知り尽くしている

弱点を攻められれば、門倉の安打率は極端に下がる。

とはいえ、門倉とて経験は豊富、ひとつ制球を誤ると簡単に外野まで運ばれてしまう

この場面、野球部バッテリーは普段以上に慎重に事を進めようとしていた。。















鞘元「(コイツには、失投さえしなければ・・・・大丈夫・・・・)」

鳥羽崎「(わかってる・・・・・)」















軽い確認を済ませた後、鳥羽崎の額から、一筋に汗が垂れる・・・

気温はそう高くないし、鳥羽崎が汗をかくと言う事は滅多に無い。



口を、閉じ。いつものように無表情で淡々とセットに入る。

しかし、その顔つきは引き攣っていた・・・。

曲がらないシュート、ここまでの球数・・・・。

そして、この回の最初に投じた一球以来、ピリっとしない投球内容。。



恐らく、汗の理由もそう言ったところだろう。。



そんな異常とも言える鳥羽崎の異変に

鞘元は気がついた・・・・。













鞘元「と・・・鳥羽崎・・・・・」

鳥羽崎「・・・・・−−−−−っ!!!」

















時、既に遅し・・・・。





鳥羽崎の投じた球は、門倉の最も好きなコースに流れていった。。

細心の注意を払い、投球させたはずだが、やはり疲れが大きく出たのだろう・・・・。

気づいた時には既に、力のない真っ直ぐが門倉の最も得意とするコースに飛び込んでいった。



















カキーン



















打球は、高々と上がり。放物線を描きながらライトのネットの奥まで飛んで行った。











鞘元「!!!」

鳥羽崎「・・・・・・・ちっ」











完全に長打コース、三塁ランナーの浅間は落ちたらすぐにスタートを切る構えを見せた。





武藤「古橋、一応ハーフまでにしておけ。万一追いつかれたら。取り返しがつかん」

古橋「了解や」





一塁コーチャーの武藤から、指示が出る。



しかし、慎重派の武藤と言えど、この打球は完全に右中間を裂いたと考えていた。



















しかし、ライトは鉄壁の壁だった。。



















誰も追いつかないはずの・・・誰も守っていないはずの右中間に、人影が移る。



その陰は早く、そして動きに無駄が無かった。



まるでその‘打球‘を見ようとせずに。ただ淡々と目的の方向へ走っていく。

陸上選手のスプリントのような走りで、右翼手秋山が打球を追った・・・・







そして、寸前でグラブを差し出した・・・・。















パシッ















武藤「!!!」

吉見「うわっ!!」

古橋「何やて!」

小宮山「スゲエ!」

浅間「おいっ!マジかよ!」















まるで、背中に目がついているかのような、無駄の無い走り。

そして、逆を向きながらの、堅実な捕球。



凄い。。としか、言いようが無い。敵ながら、叩きどころが見つからない・・・・



それがあまりに偶然には見えなかったから。。













浅間「くそっ!それでもタッチアップで一点は貰っておくぜ!」









浅間は、秋山の捕球を確認して驚きながらもスタートを切っていた。

自分の手で作ったチャンス、最後まで自分で責任もって生還したい。

そんな一心で全力で本塁へと走り続けた。

















しかし・・・・

















秋山「まぐれはそんなに続かないよぉ!!!」



















バシッ

















浅間「・・・・・・」

鞘元「残念・・・・・」















主審がアウトを宣告して。野球部の選手は皆、ベンチへ戻っていく・・・・。



一瞬、幻のような光が一閃、古橋の前を横切った・・・・

それだけだった・・・・。



秋山の投じた本塁への返球は、まさにレーザービーム。

ノーバウンドで、鞘元の構えたところから全く逸れずに、ミットに収まった。

あんなに深いところから、殺されるなど、誰もが予想だにしていなかった。。



そんな怪童秋山の送球に、第二野球部は唖然とするしかなかった











古橋「くそー、なんて野郎や・・・・」

浅間「とんでもねぇ化け物だ・・・あのライト」

門倉「今の回、最低もう一点は欲しかった・・・」

吉見「し・・・仕方ないさ。切り替えよう!」









気持ちを切り替えきれぬまま、第二野球部は、6回表の守備に散る。



今の回、あと1点入れられた・・・そんな後悔を誰もが背負って・・・・。。

あと、2回で最低2点返さなければならない

次の回は5番の吉見からだが、最低1人出なければこの試合中軸に回らない。

一人出て回ったとしても、2点は厳しいものがある。。





しかし、彼等は諦めなかった。

満身創痍の古橋に、苦心のリードを続ける吉見。

そしてそれを支えるバック。この回からは中浜もライトへ加わった。

















あと2回・・・・・。















可能性がある限りは・・・・





彼等は全力を尽くして・・・戦い続ける。。。

















だが、その可能性が限りなくゼロに近いことは誰の目にも明らかだった。。














6回表、無死ランナー無し。

先攻 野球部4−2第二野球部 後攻







続く