第2話 其の三[正統派?声を失った少女]






























「ぬおぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!遅れるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」


とまあ何故僕がこんなに死に物狂いになってるかと言うと学校に遅れそうなのだ。

こんなことを思ってる場合ではないのだ!とっとと走るのだ!

不意にT路地から同じ理由で走っているであろう女の子が出てきた。


「うわっ!ちょいストップ!わあぁぁぁぁぁぁぁ!」


急に止まれない僕はその女の子にぶつかってしまった。

女の子の持っていた鞄が吹き飛び中身がすべてこぼれる。


「ご、ごめんなさい!すぐに拾います!」


一人テンぱる僕。

すべてを拾い終わるとその女の子が手帳に何かを書いて僕に見せた。


『お怪我はありませんか?』


丁寧な字でそう書かれていた。


「え?いや…僕は特に…」


そう言うまた何かを書いた。


『それは良かったです。』


唖然としてると女の子は立ち上がってまた手帳を見せた。


『では』


そうしてまた走って行った。

僕はしばし呆然としていた…

遅刻した。





















「勧誘に行くぞ。」


僕は机の上で突っ伏してる丸岩に言う。

そう!今こそ勧誘の時!1に勧誘2に勧誘3、4が無くて5に勧誘だ!


「んん〜俺はパス。昨日勧誘したし。今日は練習する。」


そういえば丸岩が昨日部員を勧誘してきた。

元空手部の宝来坂(ほうらいざか)という人だがなんか体つきが凄かった。

もうなんかこう…筋肉隆々と言う言葉はこの人の為にあるのではないかと一瞬マジで思った。

まあ勧誘した丸岩は…


『違う!違うのだ!スボーツをする女の子というのはもっとナイスバディでないといけないのだ!…そう!アメリカ美人のローラのように!!!』


とか言っていたが…確かにローラはナイスバディだと思うが…失礼だろ…


「見つけました〜」

「練習しましょうコーチ。」


ガン!

痛そうな音が教室に響いた。いや実際痛かった。

なぜならその音は僕が机の角にもろにおでこをぶつけた音だからだ。


「こ…コーチ!?丸岩…君は鈴峯姉妹に何を吹き込んだんだ!」

「許せ早乙女…汚れを知らない美少女にコーチと呼ばれるのは…男のロマンなのだ…」

「「今日はノックをしてくれるんですよね〜コーチ」」


ああ…汚れを知らない純白の少女達が…


「ってそんなアホな事やってないでとっとと勧誘に行く!ほら美紀美穂ちゃんも…」

「ええ〜」

「今日は見逃してくださ〜い」


うるうるうるうるうるうるうるうるうるうるうる…

うう…この…某金融会社CMのチワワのような目で僕を見るな!どこで覚えたんだそんな技!










「くそ〜」


なんだかんだ言って結局今日は僕だけで勧誘になった…僕一応部長なんだけどな…


「やっぱり丸岩が仕込んだんだろうなあの潤目は…おや?」


不意に今は使われていない教室からピアノの音が聞こえてきた…よくは知らないが…ショパンの曲か?


怪談話でよく聞くシチュエーションだ。誰もいない教室からピアノの音が聞こえてきてその教室の扉を開けると…駄目だ!

考えるな!

素通りするぞ!

このまま素通りだ!

考えとは裏腹に僕の手は既にドアノブに掛かっている。

いやあああああだめ!駄目だってそんなことしたら!中に何かがいるかも…

僕の手がドアを開けた。中は真っ暗だ。ピアノの音が止まった。椅子が倒れる音がする。


「ひあ…」


ここから出ようとドアのほうを見るとドアが引き戸だった為いやな音を立てながらしまる。

暗闇の奥で何かが動く音がする。


「うひゃああああああ!!!」


ドアを開けようと頑張るが真っ暗でどこにドアがあるのかすら分からない

何かが動く音がだんだんクリアになって来た。

そうこうして焦ってると机か何かにつまずきもろにこけた。


「痛つつ…ってうわあ!!!」


だんだんと何かが歩いてくる足音が聞こえてくる…え?足音?

…僕が予想していたものには基本的に足が無いはずなんだけど…あれ?

電気がついた。


「あ…」


僕の目の前にいたのは僕の予想していたものではなく今日の朝あった女の子だった。


「あ…これはその…そのですね…」


今までの痴態をすべて見られたのかと思うと体中の体温が2度ほど上昇した。穴があったら入りたい。

少女はまた手帳に何かを書いた。


『何をしていたんですか?』


うん当然の質問だよね。

あんなところを見たんだもの。

とりあえず僕はこれまでの経緯をすべてその少女に話した。


『そんなことがあったんですか…』

「そうです…ハハッ僕って馬鹿ですよねろくろく高校のことも調べないですぐ人を信用しちゃって…」

『つまり貴方は一人部員を勧誘してきたら練習できるのですね。』

「ええ…まあ今日のところは…」

『分かりました』

「へ?」

『私が野球部に入りましょう。』

「ええ!」


なんと大胆な決断!最近の女性は皆こうなのか!いやそれは無い(反語表現)


「い…いいの?大変だよ。」

『いいですよ。ちょうど帰宅部ですし。』


ちょっと考えてみる・・・・・・・・・こんなに美味しい話は無い。


「ありがとう!これで僕もやっと練習に参加できるよ!本当にありがとう!」


僕は少女の両手を握り思いっきり上下に振る。疲れたのですぐやめた。


『宜しくお願いします。私は琴宮木与(ことみやきよ)と申します。』

「うん!僕は早乙女亮太!宜しくね!」


一通り挨拶を終える。なんかトントン拍子に話が進んでる気がする。


「ところでさ、何で琴宮さんは喋らないの?」


僕は琴宮さんの持っている手帳を見ながら言う。

すると琴宮さんは凄い勢いで僕を睨んできた。


『早乙女さん…聞いていい事と悪いことがありますよ。』

そう書き残して琴宮さんは教室から出て行った…なにはともあれ後二人で野球が出来る。

僕は心の中で喜びを噛みしめていた