第2話 其の四の@[揃った9人目]
「お父さん!…お父さん!どうしたの!?」
小学校4年生ほどの男の子がしきりに父の名を呼んでいる。
「亮・・・太…逃げ・・・ろ…今・・・す・ぐ…」
今の男の状況は…文字では表現できない事になっている。
しいて言えば…己の体液にまみれまくっている…という所か…
「え?…お父さん意味わかんないよ!ちょっと!おt…」
少年の背中には果物ナイフが刺さっており…
僕はベットの上から飛び起きていた。
久しぶりにあの夢を見た…吐き気がする…熱があるような感じになって背中と胸がチリチリと痛みだす。
部活のキャッチボール中丸岩にそのことを話す
「丸岩。」
「ん?何だ?」
「今日な、あの夢見た。」
言った瞬間丸岩の表情が変わった。
恐怖と怒りと哀れみと…喜び以外の表情がすべて混ざったような顔になった。
「早く忘れろ!そんなこと。」
そう言いつつ丸岩がボールをかえす…大暴投。
「バッカ、ちゃんと投げろよ。」
転々とボールが転がってゆく、しかし誰かが止めてくれた。
「ありがとうございます。」
頭を下げる。
取ってくれたのは勿論女、整った顔をした赤髪の女の子だった…地毛かもしれない。
「貴方も私と同じですね。」
訳の分からない言葉、そして…
「貴方はその瞳の奥にどのような悲しみを抱いているのですか?」
驚愕、驚いて顔を上げる。
そこにはやはり整った顔つきの女の子がいた…
「いかに楽しそうに演じていても私には分かります。貴方が笑っていても貴方の瞳は笑っていないのですよ、常に冷たい氷の様な瞳です。貴方は一体どの位巨大な悲しみを背負っているのですか?」
僕は急いで女の子から走って離れる…何故だろう?
体が勝手に反応したからだと思う…あの事を話したのは丸岩だけだ。
しかし丸岩の口は堅い。
ならば何故あの子は僕のことを知っているんだ…あの事を知っているんだ?
それに「私と同じ」って事はあの子も。
「ボールをお忘れですよ〜」
後ろのほうでそんな声が聞こえた。振り向く、大体30m位だろうか。
「それっ!」
女の子の手からボールが離れて…一瞬でここまで来た、早すぎる、あの子も野球をやっているのだろうか?
しかしそれを確認することは出来なかった。
僕が再び見るとその子はもうそこにはいなかった。まるで初めから居なかったかのように。
「・・・・・・・・・・」
僕の沈黙は秋の近づきを知らせる風によってかき消された…