第七話[マネージャーは…幼馴染?]
4月…早乙女たちは2年生となり3年生が卒業していった…
まあ野球部は全員同学年である為部員が減るなどの心配は無い、
どちらかと言えば新一年生に期待している面もある。
…しかし世の中とは無常なもの今年の恋恋高校の男子の人数は…8人、しかもそのうち7人は定時制なのだ。
…恋恋高校の受難はまだ続きそうだ。
「…どうやら今年は部員には恵まれそうにありませんね」
いつものごとく寂れた部室、今は僕と霧島先生しかいない。
「…基本的にこの学校は進学校ですから、わざわざ野球をしに来る人なんていないんですよ…ソフトボールは強いですけどね」
「はぁ…」
ついため息がもれる、しんみりした空気になってしまった、
先生も給料が入った財布を落としたせいか沈んでいる。
「お兄ちゃーん!」
急に部室の扉が勢い良く開き聞き覚えのある声に抱きつかれ僕は倒れた。
「で?なんでお前が一年生の小柳湊(こやなぎみなと)さんと部室で抱き合っていたんだ!?」
僕は女性部員全員に囲まれ正座させられています。
理由は簡単あの子が僕にダイブしているときに皆が来てしまったからです。
「だから…湊ちゃんとは昔っからの幼馴染で…」
「そんな言い訳が通用するかぁ!」
ドシンという音を立たせて宝来坂さんの握り拳が床にめり込んだ、
床はコンクリですよね…拳がめり込んでますが…
「そんな恋愛小説みたいな設定があるかぁ!だいたいもろに抱きついていたじゃないかぁ!」
うぐ…だからそれは湊ちゃんが…
駄目だ…何を言っても言い訳みたいになってしまう…湊ちゃんは霧島先生とどこかに行っちゃうし…
丸岩ぁ早く来てくれぇ…
ちなみに僕と湊ちゃんはずっと前からの幼馴染…ついでに言うと丸岩と共通の幼馴染だ…付き合いは丸岩のほうが長いかな…
「早く吐けと言ってるでしょ!」
…丸岩ぁ早く来てくれぇ…
「ふう…今日は疲れたな…」
俺は皆が帰った後の部室に湊と二人で残っていた…
なんか早乙女が「教育的指導をしっかりしておくように!」とか言っていたが…
まあ湊のはやる気持ちも分からないでもないが…
「ごめんなさい…私…久しぶりに早乙女お兄ちゃんに会ったから…」
俯いたままそう答える湊…本来素直な子だからな…早乙女に迷惑をかけた事を本格的に反省している。
「まあそう落ち込むな、マネージャーになったんだろ?明日から好きなだけ会えるじゃねえか」
「うん…でも…あと一年だから…」
ロッカーにかけていた手がピクッと止まる。
「一年なのか…?」
「うん、あと一年で私…お兄ちゃん達とは会えなくなる…遠くに行くから…」
湊は目に涙を溜めていた…そりゃそうだ…せっかく会えたのに…もう…そんな時期なのか…
「マサ兄…」
「ん?なんだ?」
「昔みたいに…泣いてもいい…?」
そこにいるのは15歳になった小柳湊ではなく…俺の幼馴染の…人前で涙を見せる事が嫌いな湊がいた。
「泣きたいときには泣けばいいさ、泣けなくなる前にな…俺の胸でいいのならいつだっていいよ」
湊は俺の胸で泣いた…おろしたてのYシャツかグチョグチョになったかもしれないが…俺はそっと湊の華奢な体を抱きしめてやった…
本当…罪な男だよな…早乙女よ。