第九話[病院内で…]



































日曜日の朝…朝練のために全員集合すると宝来坂が真っ先に異変に気づいた。


「丸岩…早乙女がいないが…」


まさしくその通りでフェンスに張り付いている女子高生どもも「早乙女君がいなーい」とか

「じゃあここにいる意味無いじゃん」などと抜かしながらすたすたと帰ってゆく…

まあそれはそれで静かに練習が出来てよいのだが…俺には見向きもしない訳なの?

しかし今日に限っては早乙女がいない理由が分かっているので気に咎めない、

と言うかあの野球馬鹿が練習を休むなどあの事意外理由が無い。


「ああ…まあ心配するな早乙女からは連絡をもらった」


この情報は嘘だがとりあえず早乙女の行動は知っているのでそう誤魔化しておく


「コーチ!」

鈴峯姉妹の片割れ(帽子をかぶっているので髪型で区別が出来ない)がピシッと俺が教えた通りに垂直に手を上げる。

ここまで俺の言う事を聞くのもどうかと思う、詐欺とかに会ったら一発だよな…後で注意しておこう…などと思いながら指名する。


「すみれちゃんもいないですぅ〜」


すみれちゃん…葉桜の事か…葉桜については連絡が無いんだが…後で本人に連絡をとっておこう。
































「俊一…髪が伸びたな…」


ここは国立病院の6階603号室…主に植物状態…つまりただ生きているだけの人間を収容する部屋となっている…


「でも切ったら怒るからなぁ…後ろで束ねてみるか!」


そのベットの横に座り一人で喋っている…いや話しかけている顔の整った青年…

早乙女はベットに横たわるこれまた顔の整った青年の髪を触る。


「よし!それじゃあ髪留め買ってくるよ」


早乙女は椅子から立ち上がり側にあった鞄から財布だけを取り出し病室から出て行った。


早乙女は気づかない。

ベットの周りが前回来た時より綺麗になっていることを…

早乙女は気づかない。

自分が買ってきた花ではない花が花瓶にささっていたことを…























「いよっしゃー!!!」


金属バット特有の甲高い音とともに白球がこれでもかというほど遠くに飛んでゆく、

普通の球場ならあわや場外ホームランと言ったところか…


「見たか!丸岩!この飛距離を!」

「おーおーがっつり見たよ宝来坂さんよ…その前の推定50回の大きな空振りもな」

「う…うるさい!この飛距離がかんじんなんだよ!」


ふむ…そういう考えもあるか…たしかにこの飛距離は相手投手のやる気を奪うな…しかも女だからなぁ…


「だけんどもうちょっと確実性が無いと4番は無理だよ」

「それは期待していない、葉桜には敵わないよ」


首を左右に振りながらもう一度マシンと向き合う宝来坂…たしかに5番タイプだよな…




…そういやさっき葉桜に電話したとき後ろから「お嬢さん!ここでは携帯を使わないで下さい!」って言ってたけど…あれどこだったんだろ?































「俊一!お待たせ…あれ?」


僕が側のコンビニから帰ってみるを花瓶の花が変わっていた…

無論僕はやった事を忘れるアルツハイマーではない…


「…看護婦さんがやってくれたのかな?」







早乙女は知らない…


早乙女がいない間に来客者があった事を…



早乙女は知らない…


ベットのシーツに大量の涙でシミができている事を…