第十一話[まいったね]




































『一番、センター、友沢さん』


ウグイス嬢の放送と共に友沢がバッターボックスに入る。

バットを短く持ち早くも自分の構えを作ってしまう。その構えには無駄が無い。

柚元が振りかぶり何の変哲も無いフォームから白球を…投げた。

友沢の好きな外角低め。


(三遊間…狙う!)


キィンと言う音の後にボールが友沢の思惑どうり三遊間の真ん中を抜ける。


「ぃよし!」


友沢が嬉しかったのか一塁上で小さくガッツポーズをする。











「どっ…どっ…どうしましょう!?」


「監督…そんな事は自分で考えてくださいよ」


とても24とは思えない顔で僕に意見を求める霧島監督。


「それじゃあ…」


ベンチの横に貼り付けてあるサイン表を確認しながら監督がサインを出す。

…いきなり盗塁ですか!

…しかも一球目から!

友沢さんもいきなりの盗塁のサインにいささか戸惑いを隠せない様子。

一見無謀に見えたこの作戦も友沢さんの足の速さと意表をついた盗塁であっさりと決まってしまった。

そして琴宮さんが手堅くバントを決めて一死三塁。


「…まいったね…ここまで上手くいくもんなんだ」


思わずそう漏らしてしまった。


『三番、ファースト、丸岩くん』

「うははははは!任せておけ!見ていろ!この俺のオタク魂を!」

「って!オタク関係ねーだろ!この馬鹿!」


物凄くアホな会話だがこのいつもどうりの会話がベンチの雰囲気を軽くする。











…さっきから初球はストレートなんだよなぁ…

俺は打席に入り早く構える、初球のストレートを逃さない為だ。

ふむ…ライト方向に流せば最悪アウトでも犠牲フライか…

柚元が振りかぶって…投げた。

外角高め!もらったぁ!


コキン…

焦りとか緊張とかその他もろもろの要素が俺のバットスイングをおかしくしてしまった…はいすいません打ちぞこないです。

だが上手い事風に乗りライト定位置よりやや後ろの方に飛んでゆく。

…よし!友沢の足なら犠牲フライだ。

そしてライトの…大具来がボールを取った。


「友沢ゴー!」


まあ俺がこう言う前に友沢はスタートしていた訳だが…











パン!










「アウトォ!」





突然俺の前をとてつもないスピードでボールが通った後すぐにそのボールが入ったミットが友沢の体に触れていた。

友沢は、信じられない、といった顔をしていた。







ライトの大具来が50M5.9の友沢を中継無しで刺したのだ…






あまりに信じられない光景に


「…まいったね、ここまで上手くいかないものか…」


そう漏らしてしまった。



恋0−0柚