第十七話[攻略不可能]
恋1−2柚
地面に照りつける直射日光は皆の想像以上で、地面にはうっすら陽炎すら見える。
そして、恋恋対柚北の試合は白熱する一方だ。
恋恋の打順は1番、友沢
友沢の武器は何よりその目だ。
左右視力2.0は伊達ではない、変化球打ちをやらせれば間違いなく恋恋一だ。
キャッチャーの大具来はやや腰を浮かせあのポーズをとる。
柚元の一球目
フワフワ〜
まるでやる気のないボールが山なりの軌道を描いて飛ぶ。
フラフラ〜
漫画のように分身する訳ではないがボールが微妙にフラフラと揺れる。
友沢が右足を踏み込む。
ボールはそこからスッと軌道を変える。
友沢はまさにそこしかないと言うタイミングでバットを振る。
ガシ…
しかし予想外の変化だったのか友沢はバットに当てられず、大具来もまたボールを取りきれずボールはレガースにあたり後方へ飛んでいった。
「全然取れてないね…」
それたボールを取りに行く大具来君を見て横でドリンクを飲んでいるローラにそう言う。
「イエース、アノキャッチャーヘタッピスギデース!キャッチャーをナメスギデース!」
ローラもそう言いながら僕にドリンクを差し出す。その手つきからして僕に拒否権はない感じだ。
…ローラは絡み酒をするタイプか。
フワフワ〜
フラフラ〜
2球目もナックルボール。
友沢はまた同じタイミングで踏み込む。目をこらし必死に変化について行く。
チッ…
「ファール!」
恋恋応援席から「オォー」というどよめきが起こる。前には飛ばなかったがバットには当てた。
「さあ来い!不思議球!」
友沢もコツを掴んだのか打つ気満々だ。
「無理無理。」
友沢の声が聞こえたライトの水田は首を振る。
「柚元のナックルは攻略不可能だよ」
柚元の三球目は大きく外れたのでカウント2−1。
不意にマウンド上で柚元が右手の人差し指を舐め自分の手前に差し出す。投手としては不可思議な行動だ。
何秒か後に急に思い立ったように人差し指を袖で拭き4球目を放る。
友沢の待ち球「不思議球」
しかし、さっきまでの球とは確実に違う。
回転が無いのだ。
今までのボールも回転は少なかった。
しかし、友沢の目から見たさっきまでの球はホームベースに来るまでに2〜3回転はしている球だった。
しかし、今回の球は回転なし、ノー回転、回転のKの字も無い。
…そして
フラ、フラフラ、フラフラフラ、フラ、フラフラフラ〜
(すごい揺れ…それとも…分身魔球?)
あまりの揺れにそう思ってしまう友沢だがきっちりタイミングは合わせる。
そして…ボールが落ちる。
(……え?)
ボールはまるで友沢を嫌っているように友沢から…
逃げながら落ちる
(え?そんなことって…あり?)
無論アリである。
さすがの友沢もついて行けず空振り三振。
…のはずだが
「友沢ぁ!キャッチャー逸らしてるぞ!」
一塁コーチャーズボックスの宝来坂が声を張り上げて叫ぶ。
そう、変化についていけなかったのは友沢だけではない。
キャッチャーも大具来もまた変化について行けずボールを逸らしていた。
友沢は俊足を活かし一塁へ走る、足だって恋恋一だ。
「ファースト!死んでも取れぇ!」
大具来が右手でボールを拾い振り向きざまにボールを投げる。
ズドォン!
「ぐぁ!」
とてつもない音を上げてボールは一塁手のグローブに収まった。一塁手は相当痛そうだがしっかり両手でボールを持っていた。
『アウト!』
…友沢、本日二回目の刺殺。
もう観客は目を見張るしか無かった。
柚元の変化球に、
大具来の肩に、
そして…
大方の予想とは裏腹に健闘する恋恋高校野球部に、
恋1−2柚